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4.現代社会と福祉(R4年2月-第35回)1/2

問題22 次の記述のうち、近年の政府による福祉改革の基調となっている「地域共生社会」の目指すものに関する内容として、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 老親と子の同居を我が国の「福祉における含み資産」とし、その活用のために高齢者への所得保障と、同居を可能にする住宅等の諸条件の整備を図ること。
2 「地方にできることは地方に」という理念のもと、国庫補助負担金改革、税源移譲、地方交付税の見直しを一体のものとして進めること。
3 普遍性・公平性・総合性・権利性・有効性の五つの原則のもと、社会保障制度を整合性のとれたものにしていくこと。
4 行政がその職権により福祉サービスの対象者や必要性を判断し、サービスの種類やその提供者を決定の上、提供すること。
5 制度・分野ごとの縦割りや、支え手・受け手という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が我が事として参画すること等で、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていくこと。

1は×である。1978年の厚生白書に書かれていたものである。
2は×である。2004年に提唱された三位一体の改革の説明である。
3は×である。
1995(平成7)年7月に社会保障制度審議会がとりまとめた「社会保障体制の再構築(勧告)~安心して暮らせる21世紀の社会をめざして」の中にある社会保障推進の5原則である。
4は×である。措置制度についての説明である。
5は〇である。
地域共生社会は、厚生労働省が掲げるビジョンで、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」 の内容に盛り込まれたものである。

正解5
地域共生社会という言葉からイメージできるものを選択肢の中から探せばよい。

問題23 福祉に関わる思想や運動についての次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 バーリン(Berlin、I.)のいう積極的自由とは、自らの行為を妨げる干渉などから解放されることで実現する自由を意味する。
2 ポジティブ・ウェルフェアは、人々の福祉を増進するために、女性参政権の実現を中心的な要求として掲げる思想である。
3 1960年代のアメリカにおける福祉権運動の主たる担い手は、就労支援プログラムの拡充を求める失業中の白人男性たちであった。
4 フェビアン社会主義は、ウェッブ夫妻(Webb、S.&B.)などのフェビアン協会への参加者が唱えた思想であり、イギリス福祉国家の形成に影響を与えた。
5 コミュニタリアニズムは、家族や地域共同体の衰退を踏まえ、これらの機能を市場と福祉国家とによって積極的に代替するべきだとする思想である。

1は×である。バーリンの消極的自由について説明である。
2は×である。フェミニズム運動についての説明である。
3は×である。白人男性ではなく、黒人男性である。
4は○である。
5は×である。
コミュニタリアニズムとは、20世紀後半のアメリカを中心に発展してきた共同体(コミュニティ)の価値を重んじる政治思想である。㉘問32参照。

正解4
英米の福祉の歴史、福祉思想についての問題である。かつては良く出題されていたが、最近は出題されていなかった。記述の内容から、誤っている部分を見つけられる肢もある。

問題24 福祉政策に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 アダム・スミス(Smith、A.)は.充実した福祉政策を行う「大きな政府」からなる国家を主張した。
2 マルサス(Malthus、T.)は、欠乏・疾病・無知・不潔・無為の「五つの巨悪(巨人)」を克服するために、包括的な社会保障制度の整備を主張した。
3 ケインズ(Keynes、J.)は、不況により失業が増加した場合に、公共事業により雇用を創出することを主張した。
4 フリードマン(Friedman、M.)は、福祉国家による市場への介入を通して人々の自由が実現されると主張した。
5 ロールズ(Rawls、J.)は、国家の役割を外交や国防等に限定し、困窮者の救済を慈善事業に委ねることを主張した。

1は×である。
アダム・スミスは、「(神の)みえざる手」で著名な経済学者である。スミスは個人が利益を追求することは、一見すると社会に対しては何の利益ももたらさないように見えるが、各個人が利益を追求することによって、社会全体の利益となる望ましい状況が「見えざる手」によって達成されると考えた。大きな政府からなる国家を主張したものではない。㉕問25参照。
2は×である。
マルサスは『人口論』で有名である。説明は、ベヴァリッジの5つの巨悪である。
3は〇である。有効需要の創出についての説明である。
4は×である。
フリードマンの主張は、国家の介入は少ない方がよいとするものである。㉝問26では、彼の提唱した負の所得税が選択肢の一つとして出されている。
5は×である。
ロールズについては、㉝問22、㉘問23など、過去問でも定期的に出題されている。彼は『正義論』の中で、最も恵まれない人が有利となるような資源配分は正義にかなうとしており、国家の役割を外交や国防等に限定しようという考えではない。

正解3
前問に続いて人物に関する出題である。福祉政策について、経済学者や政治哲学者の思想との関連性を聞くものといえる。わからなければ、さっさと諦めた方がよい問題である。

問題25 近代日本において活躍した福祉の先駆者に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 石井十次は岡山孤児院を設立した。
2 山室軍平は家庭学校を設立した。
3 留岡幸助は救世軍日本支部を設立した。
4 野口幽香は滝乃川学園を設立した。
5 石井亮一は二葉幼稚園を設立した。

1は〇である。㉜問94、㉚問93参照。
2は×である。山室軍平は、救世軍日本支部を設立した(3の説明参照)。
3は×である。留岡幸助は、東京と北海道に家庭学校を設立した(2の説明参照)。㉚問94参照。
4は×である。野口幽香は、二葉幼稚園を設立した(5の説明参照)。
5は×である。石井亮一は、滝乃川学園を設立した(4の説明参照)。㉚問137参照。

正解1
久しぶりに登場した人物が2名いる。いずれも福祉分野では著名な人物であるが、知らないことには答えようがない。仮に1が正解と分からなかったとしても、残る2から5までの人物のうち2人について知識があれば、交差法で解くことができる可能性がある。

問題26 福祉六法の制定時点の対象に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 児童福祉法(1947年(昭和22年))は、戦災によって保護者等を失った満18歳未満の者(戦災孤児)にその対象を限定していた。
2 身体障害者福祉法(1949年(昭和24年))は、障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし、その福祉の施策の基本となる事項を規定する法律と位置づけられていた。
3 (新)生活保護法(1950年(昭和25年))は、素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項を有していた。
4 老人福祉法(1963年(昭和38年))は、介護を必要とする老人にその対象を限定していた。
5 母子福祉法(1964年(昭和39年))は、妻と離死別した夫が児童を扶養している家庭(父子家庭)を、その対象外としていた。

1は×である。
急いで制定した目的は戦災孤児の救済にあったと思われるが、対象者は戦災孤児に限定されてはいない。
2は×である。
身体とついているのだから、「障害の種別を問わず全ての障害者を対象とし」ていると考えるのは不合理である。
3は×である。
素行不良な者等を保護の対象から除外する欠格条項があったのは、旧生活保護法(1946年)である。㉚問65参照。
4は×である。
老人福祉法(1963年(昭和38年))は、介護を必要とする老人にその対象を限定していない。
5は〇である。
対象外としていたの「外」を見落とすと混乱する。なお、2014年に、増加傾向にあった父子家庭にも福祉の対象が広げられ,母子及び父子並びに寡婦福祉法と改称されている。

正解5
1と2と4はどれだけ勘を働かせられるかであろう。3は過去問で何度か出題されている。

問題27 福祉のニーズとその充足に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ジャッジ(Judge、K.)は.福祉ニーズを充足する資源が不足する場合に、市場メカニズムを活用して両者の調整を行うことを割当(ラショニング)と呼んだ。
2 「ウルフェンデン報告(Wolfenden Report)」福祉ニーズを充足する部門を、インフォーマル、ボランタリー、法定(公定)の三つに分類した。
3 三浦文夫は、日本における社会福祉の発展の中で、非貨幣的ニーズが貨幣的ニーズと並んで、あるいはそれに代わって、社会福祉の主要な課題になると述べた。
4 ブラッドショー(Bradshaw、J.)は、サービスの必要性を個人が自覚したニーズの類型として、「規範的ニード」を挙げた。
5 フレイザー(Fraser、N.)は、ニーズの中身が、当事者によってではなく、専門職によって客観的に決定されている状況を、「必要解釈の政治」と呼んだ。
(注)「ウルフェンデン報告」とは、1978年にイギリスのウルフェンデン委員会が発表した報告書「The Future of Voluntary Organisations」のことである。

1は×である。
ジャッジの割当(ラショニング)は、市場メカニズムの調整に委ねられないことから問題となるものである。㉓問30参照。
2は×である。
ウルフェンデン報告は、福祉の供給主体をフォーマル部門 、インフォーマル部門、民間営利、民間非営利の4つにわけた。
3は〇である。㉜問24、㉙問32参照。
4は×である。
サービスの必要性を個人が自覚したニーズは、感得されたニーズ(フェルト・ニーズ)である。㉛問105参照。
5は×である。
「フーコーによれば、「Need とは、非常に周到に用意され、意図され、そして使われる、政治的な道具でもある」(1977)。

正解3
5のフレイザーの出題は初だと思われる。2も迷うであろう。三浦文夫に関する3を積極法で選べなかった人は、解きづらかったと思われる。
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フレイザー(1989)はこの理解のもとに、社会システムが受け取り側に沿って作り出しているように見えるニーズとは、それを解釈し、再定義する言説によって構成されたものであるということに言及していった。
そして彼女は、ニーズをめぐって語られる、何らかの問題について「公共的に対応すべきものと解釈する言説」「私的な家庭内の問題と解釈する言説」せめぎ合い「ニーズ解釈の政治」と称し、ニーズに付与された「解釈」を読み解くことで、その「解釈」に埋め込まれている力学、ポリティクスを暴こうとした。
(清水美紀(2016)「フレイザーにおける公共性の問題-「ニーズ解釈の政治」と子どもに関する一考察-日本教育学会第75回大会pp304-305」。

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