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13.権利擁護と成年後見制度(R元年-第32回)

問題77 次のうち, 成年後見開始審判の申立てにおいて, 申立権者に含まれない者として, 正しいものを1つ選びなさい。 1 本人の孫の配偶者 2 本人の叔母 3 本人の甥(おい) 4 本人の子 5 本人のいとこの配偶者   申立権者が誰であるかから考えて論理的に解く方法もあるが、覚えていなければその方法は使えない。厳密に考えると本問はかなり高度な問題ともいえる。 しかし、発想を変えれば解くことは可能である。選択肢にあるのはいずれも親族である。そこから、もっとも親等の遠い人間が×だろうと推測できる。 1は二親等、2は三親等、3は三親等、4は一親等、5は四親等である。一番遠いのは5の本人のいとこの配偶者となる。親等の数え方は他の場面でも使える。一度理解すれば、あとは家系図を書いて数えるだけでよい。問題77のメインテーマは、民法の親族法における親等の数え方である。ところで、申立てができるのは、「本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官」である(民法7条)。ここで「四親等内の親族」とあるので、肢5も×ではないかと考えた人もいるかもしれない。なかなか鋭いが、親族の範囲については別に規程があり、「①六親等内の血族、②配偶者、③三親等内の姻族」とされている(民法725条)。肢5の「本人のいとこの配偶者」は四親等の姻族であるため「四親等内の親族」には含まれないことになる。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 市町村長は列挙されていないが、65 歳以上の者(65 歳未満の者で特に必要があると認められるものを含む)、知的障害者、精神障害者について、その福祉を図るために特に必要があると認めるときは、後見開始の審判等の請求ができることが別の法律で規定されている。 (老人福祉法第32 条、知的障害者福祉法第28 条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51 条の11 の2)

【正解5】

問題78 事例を読んで, 次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。 〔事例〕 A さんは, 判断能力が低下している状況で販売業者のU 社に騙(だま)され, 50 万円の価値しかない商品をU 社から100 万円で購入する旨の売買契約書に署名捺印(なついん)した。 U 社は, Aさんに代金100 万円の支払を請求している。 1 Aさんにおいて, その商品と同じ価値の商品をもう一つ引き渡すよう請求する余地はない。 2 Aさんにおいて, 消費者契約法上, Aさんの誤認を理由とする売買契約の取消しをする余地はない。 3 Aさんにおいて, 商品が引き渡されるまでは, 代金の支払を拒む余地はない。 4 Aさんにおいて, U社の詐欺を理由とする売買契約の取消しをする余地はない。 5 Aさんにおいて, 契約当時, 意思能力を有しなかったとして, 売買契約の無効を主張する余地はない。   十分な知識がなければ、感覚で解けばよい。結論が公平なものか、合理的なものかに注意しながら、もっともよさそうだと思うものを選ぶという方法である。 正解が即答できなくても、他の肢を消去して残った一つを選ぶことができる。消去法で解ける問題。 1は、契約の内容がある商品の売買である以上、その商品と同じ価値の商品をもう一つ引き渡すよう請求することはできない。Aがその商品と同じ価値の商品をもう一つ得ることができれば経済的には釣り合うので、これが合理的ではないかと考えた人がいるかもしれないが、残念ながら契約の内容にない以上それは認められない。本肢が〇である。ただし、自信がなければ△にして、次に進む。AはU社に騙されているのだから、誤認を理由とする売買契約の取消しをできると考えるべきであろう。×である。3であるが、Aは詐欺を理由に契約を取り消せる状況にある。「商品が引き渡されるまでは, 代金の支払を拒む余地はない」とすることは公平な解決とはいえまい。×だと判断できる。4は、当然ながら×である。詐欺を理由に取り消せる余地が大いにある。5は、Aが契約当時「判断能力が低下している状況」にあったのだから、「意思能力を有しなかったとして, 売買契約の無効を主張する余地」はあると考えるべきであろう。本肢も×である。

【正解1】

問題79 行政処分に対する不服申立てに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 処分庁に上級行政庁がない場合は,処分庁に対する異議申立てをすることができる。 2 審査請求をすることのできる期間は,原則として,処分があったことを知った日の翌日から起算して10 日以内である。 3 審査請求に係る処分に関与した者は,審査請求の審理手続を主宰する審理員になることができない。 4 行政事件訴訟法によれば,特別の定めがあるときを除き,審査請求に対する裁決を経た後でなければ.処分の取消しの訴えを提起することができない。 5 再調査の請求は,処分庁以外の行政庁が審査請求よりも厳格な手続によって処分を見直す手続である。   本問は、行政の処分に対する不服申立についてきちんと理解していれば正解を導きうる問題である。過去問でも度々問われている。その意味では頻出分野である。 ポイントを押さえずに覚えようとしても、記憶に残りにくい。個別の知識を増やすことも大切なことではあるが、まずは行政の処分に対する不服申立の構造をしっかりと押さえて欲しい。 1は、行政処分に対する不服申立ては上級行政庁に対して行うことになっているので、処分庁に上級行政庁がないからといって、処分庁に対する異議申立てをすることができる、と簡単に言うことはできない。×ぽいが、自信がなければ△にして先に進む。2は、「10日以内」は短すぎると感じて欲しい。×である。3は、公正な審理手続きを狙ったものであり、内容は合理的といえる。これが〇ぽい。4は、行政処分に対して不満がある場合、まず審査請求を行いなさいという意味である。審査請求をするか、(裁判所に)処分取消しの訴えを提起するかは原則として自由である。本肢は明らかに×である。5の「再調査」は過去問で見た記憶がないが、用語のイメージからして処分庁にもう一度調査をしてくれという場合も含むと考えられる。×ぽい。

【正解3】

問題80 成年後見制度に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。 1 子が自分を成年後見人候補者として,親に対する後見開始の審判を申し立てた後,家庭裁判所から第三者を成年後見人とする意向が示された場合,審判前であれば,家庭裁判所の許可がなくても,その子は申立てを取り下げることができる。 2 財産上の利益を不当に得る目的での取引の被害を受けるおそれのある高齢者について,被害を防止するため,市町村長はその高齢者のために後見開始の審判の請求をすることができる。 3 成年被後見人である責任無能力者が他人に損害を加えた場合,その者の成年後見人は,法定の監督義務者に準ずるような場合であっても,被害者に対する損害賠償責任を負わない。 4 判断能力が低下した状況で自己所有の土地を安価で売却してしまった高齢者のため,その後に後見開始の審判を申し立てて成年後見人が選任された場合,行為能力の制限を理由に,その成年後見人はこの土地の売買契約を取り消すことができる。 5 浪費者が有する財産を保全するため,保佐開始の審判を経て保佐人を付することができる。   用語の意味が分かっていれば、常識的な判断で解けそうである。 1は、審判の前なら申立てをした子が取り下げることは可能なように思える。しかし、このような取り下げを自由に認めると本人の保護を果たせない可能性がある。そのため法は、家庭裁判所の許可があれば、申立てを取り下げることができるものとしている。本肢は×である。2だが、市町村長は本人保護のために後見開始の審判の請求が行える。設問のような事例でも、同様に行えると考えるのが素直であろう。本肢は本人の判断能力に触れていない点でやや疑問もあるが、残りの肢が明らかにおかしいので、〇とすべきだろう。3は、わざわざ「法定の監督義務者に準ずるような場合であっても」という留保があることに注意する必要がある。そのような地位にある成年後見人は、責任無能力者の監督者としての責任(714条)を負う場合があると考えるべきであろう。×ぽい。4の高齢者が取引をしたのは、後見開始の審判の申立ての前である。申立て後に成年後見人が選任されたとしても、遡って土地の売買契約を取り消すことはできないと考えるのが素直である。もし、これができるなら、現在の取引社会に大混乱が起きてしまう。×である。5であるが、現行の成年後見制度は、浪費者であることを理由としての利用を念頭に置いていない。よって、×である。

【正解2】

問題81 成年後見制度の利用促進に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。 1 成年後見制度利用促進基本計画の対象期間は, おおむね10年程度とされている。 2 市町村は, 成年後見制度利用促進基本計画を勘案して, 成年後見制度の利用の促進に関する施策についての基本的な計画を定めなければならない。 3 成年後見制度利用促進基本計画においては,利用のしやすさよりも不正防止の徹底が優先課題とされている。 4 政府は, 成年後見制度の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため, 成年後見制度利用促進会議を設けることとされている。 5 「成年後見制度利用促進法」でいう成年後見等実施機関とは, 介護, 医療又は金融に係る事業その他の成年後見制度の利用に関連する事業を行うものをいう。 (注) 「成年後見制度利用促進法」とは,「成年後見制度の利用の促進に関する法律」のことである。   この制度と市町村長の申立件数の増加は密接に関係ありそうである。 本問は、成年後見制度利用促進法の知識がないと迷うのだろう問題。  1は知らないと判断に迷う。△にして先に進む。2は内容的には悪くないが、このような計画を「定めなければならない」という義務を負わせるところがひっかかる。×ぽい。3は、「利用のしやすさよりも不正防止の徹底が優先課題」とするなら、利用は促進できないだろう。×ぽい。4は、知らないと自信を持って判断できないが、政府にこのような機関をおけば多少なりとも効果はあるかもしれないので、△。5は、成年後見等実施機関というのだから、利用促進を果たすための中核機関ということになろう。単に、「介護、医療」にかかるものであればよいとは思えないし、少なくとも「金融に係る事業」を入れるのはおかしな感じがする。×ぽい。1と4を再度吟味する。ここで1の「10年程度」という期間が、計画の効果の検証期間として長すぎるのではないかと気づけば、1を×として、4を選ぶことができる。

【正解4】

問題82 事例を読んで. 日常生活自立支援事業による支援に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 〔事例〕 Bさん(80代,認知症)は,介談サービスを受けながら在宅生活を送っていたが,金銭管理が不自由になったことを心配したC介護支援専門員からの相談により, 3年ほど前から日常生活自立支援事業を利用している。ところが2か月前から, Bさんの判断能力が急速に低下し始め,支援計画の変更が必要となった。 1 Bさんは認知症であるため,Bさんに代わって,C介護支援専門員が日常生活自立支援事業における支援計画の変更を行った。 2 日常生活自立支援事業における支援計画の変更に当たっては, Bさんの親族による承諾が必要である。 3 判断能力の低下により, 本事業による援助が困難であると事業実施者が認めた場合には,成年後見制度の利用の支援等適切な対応を行う必要がある。 4 Bさんの在宅生活継続が危ぶまれるため, 日常生活自立支援事業による支援の一環としてBさんの居住する住宅の処分を行うこととした。 5 Bさんの判断能力の急速な低下に対応するため,日常生活自立支援事業の今後の利用について運営適正化委員会に諮った。   迷う肢もあるかもしれないが、基本から素直に考えることが大切である。 迷うとしたら3か5であろう。ただし、事例の状況からすれば、本人の保護のために、最も適切な対応を考えることで、自ずと正解が出せる。 1は、介護支援専門員が日常生活自立支援事業における支援計画の変更を行う権限はないので×である。2は、迷った人もいるかもしれない。だが、日常生活自立支援事業は、本人に契約締結能力があることが前提になっている。そうだとすれば、支援計画の変更に親族の承諾は必要ないと考えるべきだろう。×ぽい。3は、内容的には問題がなく適切だと考えられる。4は、日常生活自立支援事業の支援員に「居住する住宅の処分」を行う権限はないので×である。5は、内容的にはよさそうである。ここまで来て、もう一度、事例文を読み、状況を確認する。Bさんは、既に、日常生活自立支援事業を利用している。その中で、急速に判断能力の低下が認められ、支援計画の変更が必要だと判断されている。この点を鑑みれば、5よりも3が適切だと考えられる。

【正解3】

問題83 虐待や配偶者暴力等の防止・対応等に関する関係機関の役割として, 正しいものを1つ選びなさい。 1 「児童虐待防止法」において, 母子健康包括支援センター(子育て世代包括支援センター)の長は, 職員に臨検及び捜索をさせることができる。 2 「障害者虐待防止法」において, 基幹相談支援センターの長は, 養護者による障害者虐待により障害者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは, 職員に立入調査をさせることができる。 3 「DV防止法」において, 警視総監もしくは道府県警察本部長は, 保護命令を発することができる。 4 「高齢者虐待防止法」において, 市町村は, 養護者による高齢者虐待を受けた高齢者について, 老人福祉法の規定による措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。 5 「高齢者虐待防止法」において, 市町村が施設内虐待の通報を受けたときは, 市町村長は, 速やかに警察に強制捜査を要請しなければならない。 (注) 1 「児童虐待防止法」とは,「児童虐待の防止等に関する法律」のことである。 2 「障害者虐待防止法」とは,「障害者虐待の防止, 障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。 3 「DV防止法」とは,「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」のことである。 4 「高齢者虐待防止法」とは,「高齢者虐待の防止, 高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」のことである。   設問を読んで、各肢を比較しながら、正解を見つける。 虐待に関する問題は、過去問でもしばしば出されている。概略はわかっているであろうし、通報義務の有無といった細かい知識を有している人もいるであろう。だが、本問のような問題を既存の知識だけで解くことは困難である自分が勉強してきたことをもとにして、素直に問題を読み、出題者のヒントに気づくことが大切である。 1は、「職員に臨検及び捜索をさせることができる」の部分が無茶な内容だと判断して欲しい。×である。2は臨検及び捜索ではなく「立入調査」であるが、基幹相談支援センターの長が「職員に立ち入り調査をさせることができる」との結論が少し無茶ではないかと感じる。×ぽい。3は、内容的には明らかに誤っているとは判断できない。△にして次に進む。4は、設問のような場合の措置権は市町村が有しており、措置の内容も適切なものといえる。これまでの選択肢の中ではもっともよさそうな内容である。5は、「速やかに警察に強制捜査を要請しなければならない」の部分がやや強引ではないかと感じて欲しい。まず事実関係を自ら調べるべきだろうし、いきなり警察に、しかも強制捜査を要請するのは、やはり過ぎであろう。×ぽい。積極法で正解を選びたい。

【正解4】

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