「新型コロナウィルス感染症と戦う全ての人応援ブログ ~対人援助って何だ?~」(ブログ番外編)
全国規模の緊急事態宣言を受けて、皆さん、如何お過ごしですか?
日常の過ごし方は様々でしょうが、実施期間である5月6日まで、私たちは活動自粛が求められる生活を送ることになりました。せっかくの時間ですから、これを機に、福祉を学んでみては如何でしょう。
これまで、福祉勉強会では、福祉専門職国家試験に挑戦する人たちを対象に、「受験対策応援ブログ~合格への道~」を通じて、福祉の学びを提供してきました。
この知見を活かし、緊急事態宣言の実施期間中には、応援ブログ番外編として、「新型コロナウィルス感染症と戦う全ての人応援ブログ~対人援助って何だ?~」と題し、ソーシャルワーク実践の場で活用されている「対人援助の知識と技術」について、皆さんに、分かりやすくご紹介してみたいと思います。
第2回目は「ソーシャルインクルージョン」について、ご紹介しましょう。
ソーシャルインクルージョンは、第1回でご紹介した「ノーマライゼーション」と同様に、福祉専門職および福祉職を志す者にとって、最重要ワードの一つです。
日本では、障害児教育の政策で大きく取り上げられたので、お子さんをお持ちの方は、聞いたことがあるかもしれません。
※受験勉強としては、2007年から本格的に開始された特別支援教育導入が、分離教育からインクルージョン教育への政策転換によって実現したことを学びます。
また、ソーシャルインクルージョンは、ビジネスの分野でも、多く使われている言葉ですので、「職場で聞いたことがある」という人もいるのではないでしょうか。
※受験生は、ダイバーシティとソーシャルインクルージョンの違いについて、過去問学習や事例課題等に取り組んで、理解を深めていきます。
言葉としては、ソーシャルインクルージョン=「社会的包摂」と訳されます。
ただ、先に記した通り、様々な領域で使われている言葉に加え、概念を表す用語なので、使用される業界や領域によって、少しずつニュアンスが違っているように感じます。
本ブログでは、厚生労働省の解釈を前提に、話を進めていきます。
ソーシャルインクルージョンとは、「全ての人々を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう、社会の構成員として包み支え合う」という理念です。
※厚生労働省HPより引用。
第1回目のブログを見て下さった方は、「全ての人々」「社会の構成員」というキーワードから、ノーマライゼーションの持つ意味合いに似ているな・・・と感じられたかもしれません。
事実、ソーシャルインクルージョンは、ノーマライゼーションの発展形だと主張する意見もあります。
※福祉勉強会では、2つの用語の違いを受験生に説明する時、「多様性」の捉え方に注目して、説明します。
ノーマライゼーション
様々な「違い」を異なるものと認識しつつも、社会の側がその違いに対応できる様、仕組みや環境を整えようというもの。
ソーシャルインクルージョン
様々な「違い」はあってもなくても関係なく、全ての「個性」を受け入れていこう(包み込んでいこう)という寛容さの醸成を目指すもの。
※更に、福祉勉強会では、お神輿の師匠が教えてくれた「神輿」の話を例示として紹介し、受験生がより具体的なイメージで内省できるように手助けします。
ある町のお祭りで、体の大きな外国人3人組みが、お神輿を担ぎました。体の大きな外国人3人組は、汗をかきながらも、大きな声を出し、神輿担ぎを堪能しました。彼らは、繊細かつ煌びやかに装飾されたお神輿の造形にも大きな関心を寄せ、打ち上げの席では「日本の文化は本当に素晴らしい!」と称賛の言葉を口にしました。これを聞いた、神輿の師匠は3人の外国人に、「喜んでもらえて良かった。でも、君たちは神輿担ぎの本当の意味をまだ理解していない」と言いました。神輿の師匠は、次のように続けます。
「神輿というのは、体の大きさや力の強さに関係なく、老若男女全ての人が一緒になって担ぐことに意味がある。ただ神輿を場所から場所に移動させるだけなら、それは、神輿担ぎではなく、神輿という荷物を運んでいるだけになってしまう。 どうやったら皆が参加できるか?どうやったら皆の力を集結できるか?それを考えること、担ぎ手同士が、互いを尊重し、気遣い合うこと、そのこと自体が大切なんだ。そして、一人ひとりが自分の役割を見つけて、積極的に参加すること。これが神輿だ!
参加っていうのは、何も担ぐだけじゃないよ。周りで声をだしている人だって、お囃子だって、もっと言えば、見ている人だって、皆が担ぎ手の一員なんだよ。そうやって奉納されるから、神輿は神輿になるんだ!」別の日のお祭りで、体の大きな3人の外国人は、師匠が言っていたことの意味を理解する場面を目の当たりにします。
お神輿の装束に身を包み、車いすに乗っている一人の老人がいました。老人は、ある神輿の担ぎ手達に手招きされて、杖をつきながらゆっくりとお神輿に近づいていきます。そして、近くの人に杖を手渡すと、担ぎ手の和に加わり、実に楽しそうにお神輿を担ぎはじめたのです。 杖がなければ、歩くこともおぼつかない老人が、お神輿を担ぐ光景に、体の大きな3人の外国人は驚きを隠せませんでした。同時に、師匠の言葉の意味が少し分かったような気がしました。
※これは、実話です。
このエピソードを例示にすると、いろんな人が担ぎやすいように、お神輿の素材や造形を工夫したり、ルートを整備したりすることが、ノーマライゼーションということになります。他方で、車いすの老人に参加を呼び掛ける担ぎ手達と杖をつきながらも参加しようとする老人の「つながり」を創り出すことが、ソーシャルインクルージョンということになります。
※受験生は、日本におけるソーシャルインクルージョンの捉え方が、地域における「つながり」の再構築に主眼をおいており、これが地域包括ケアや共生社会に向けた制度改正に繋がっていることを学習します。
ここで、ソーシャルインクルージョンを理解する上での、ワン ポイント! ◆ソーシャルインクルージョンは、1980年代、ヨーロッパ全土で発生した若者の失業問題が深刻化した時に、誕生した言葉だと言われている。 ◆ソーシャルインクルージョンは、理由の如何を問わず、社会から現に排除されてしまっている人と排除される可能性のある全ての人を支援対象者としている。 ◆ソーシャルインクルージョンは、ある一定の組織の中に、多様な人々が存在することのみならず、その一人ひとりが、役割をもってつながっていることを意味している。
ノーマライゼーションを福祉の共通理念として、進んできた国際社会は、現在、ソーシャルインクルージョンというフェーズで、より実践的な社会システムの基盤作り、制度設計に向かっていることが、分かって頂けたと思います。
新型コロナウィルス感染症対策の一環で、私たちは、ソーシャルディスタンスという言葉を覚えました。ソーシャル=社会・ディスタンス=距離。感染を防ぐための優しさの距離。思いやりの距離。という解釈も出来てきたようです。
ソーシャルディスタンスと併せて、ソーシャルインクルージョンという言葉も、生活の中に取り入れてみては如何でしょうか?
ソーシャル=社会・インクルージョン=包含・包摂。
あなたの優しさは、何を包み込むのでしょうか。あなたの思いやりは、どこまで広く包み込めるのでしょうか。
憂いも不安も、悲しみも寂しさも、あなたの優しさと思いやりで、全てをありのままに包み込んでもらえれば、静かに…暖かに…時の経つのを待てるような気がします。
福祉勉強会