問題77 日本国憲法の基本的人権に関する最高裁判所の判断についての次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 公務員には争議権がある。
2 永住外国人には生活保護法に基づく受給権がある。
3 生活保護費を原資とした貯蓄等の保有が認められることはない。
4 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分に差を設けてはならない。
5 夫婦別姓を認めない民法や戸籍法の規定は違憲である。
1は×である。
公務員には争議権を認められていない。最高裁判所もこれを支持する判断を示している。なお、団結権、団体交渉家については、多くの公務員に認められている。
2は×である。
最高裁は、生活保護法法が適用対象と定めた「国民」に永住外国人は含まれないとしている(最二小判2014.7.18)。なお、旧厚生省は、1954年、外国人に対しては生活保護に準じた行政措置を実施すると通知し、1990年に対象を永住外国人に限定している。現在は自治体の裁量で生活保護費が支給されている。
3は×である。
最高裁は、生活保護費を原資とした貯蓄等の保有が認められる可能性を示唆している(最三小判2004.3.16)。
4は○である。
以前は非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする旨が民法に規定されていたが、平成25(2013)年9月4日付の最高裁決定により、同規定は憲法第14条に定められる、「法の下の平等」に反し違憲である旨が示された。
5は×である。
令和3年(2021年)6月23日、選択的夫婦別姓制度に関して、最高裁判所において2度目となる合憲断がなされた。
正解4
最高裁判所の判断についての知識を問うものである。知らなければ、高校までに習ったこと、普段のニュースで見聞きしたこと、常識的判断を駆使して解くしかない。嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を違憲とした判決については出題可能性があると考えていたが、判決から約10年経過してからの出題となった。
問題78 事例を読んで、成年後見人のLさんが、成年被後見人のMさんと相談の上で行う職務行為として、適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕
Mさん(70歳代)は、自身の希望で一人暮らしをしているが、居住地域は、介護サービス資源が少なく、交通の便の悪い山間部である。Mさんは、要介護2の認定を受け、持病もある。最近、Mさんは心身の衰えから、バスでの通院に不便を感じ、薬の飲み忘れも増え、利用中の介護サービス量では対応が難しくなってきているようである。Mさん自身も一人暮らしへの不安を口にしている。
1 自宅以外の住まいに関する情報収集
2 Mさんの要介護状態区分の変更申請
3 Lさんによる家事援助
4 Lさんによる通院介助
5 Lさんによる服薬介助
成年後見人は「被後見人の財産を管理し,かつ,その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」(民法859条1項)とともに、「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」(858条)として、成年後見人の身上配慮義務を定めている。このことから「自宅以外の住まいに関する情報収集」は成年後見人の職務行為として考えるべきである。
2は〇である。Mの要介護状態区分の変更申請は、成年被後見人の職務行為に含まれる。
3は×である。成年後見人の職務行為に家事援助のような事実行為は含まれていない。
4は×である。成年後見人の職務行為に通院介助のような事実行為は含まれていない。
5は×である。成年後見人の職務行為に服薬介助のような事実行為は含まれていない。
正解1,2
試験場で迷った人が多かったのではないだろうか。その原因はいくつか考えられる。
一つは、「成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務」のうちどこまでが職務行為といえるかの判断が微妙なことである。また、本人の意思の尊重という点からは、職務行為とはいえない事実行為についても、本人の意思を尊重すべきではないかという疑問である。さらに、被後見人の判断能力から考えて、相談することにどれだけの意義があるのかという素朴な感情を抱くからである。
選ばなければならない選択肢は、成年後見人Lが、成年被後見人Mと相談の上で行う職務行為として適切なものである。この前提をきちんと押さえておく必要があるが、なかなかの難問である。
問題79事例を読んで、成年後見人の利益相反状況に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
共同生活援助(グループホーム)で暮らすAさん(知的障害、52歳)には弟のBさんがおり、BさんがAさんの成年後見人として選任されている。先頃、Aさん兄弟の父親(80歳代)が死去し、兄弟で遺産分割協議が行われることとなった。
1 Aさんは、特別代理人の選任を請求できる。
2 Bさんは、成年後見監督人が選任されていない場合、特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
3 Bさんは、遺産分割協議に当たり、成年後見人を辞任しなければならない。
4 特別代理人が選任された場合、Bさんは、成年後見人としての地位を失う。
5 特別代理人が選任された場合、特別代理人は、遺産分割協議に関する事項以外についても代理することができる。
特別代人の選任は、Bが請求しなければならない(民826条、860条)。
2は〇である(民826条、860条)。
3は×である。
Bは特別代理人の選任を請求しなければならないが、成年後見人を辞任する必要はない。
4は×である。
Bは利益相反取引において代理権を有しないだけであり、特別代理人が選任されても、成年後見人としての地位を失うわけではない。
5は×である。
特別代理人の権限は、利益相反取引にしか及ばない。
正解2
利益相反取引における特別代理人の選任については、㉞問81、㉚問79で出題されているが、本問は事例形式になっているため、より応用力が試される。
問題80 成年後見制度の補助に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 補助は、保佐よりも判断能力の不十分さが著しい者を対象としている。
2 補助開始の審判をするには、本人の申立て又は本人の同意がなければならない。
3 補助人の事務を監督する補助監督人という制度は設けられていない。
4 補助開始の審判は、市町村長が申し立てることはできない。
5 補助人に対し、被補助人の財産に関する不特定の法律行為についての代理権を付与することができる。
1は×である。判断能力の不十分さは、補助<保佐<後見の順に大きくなる。
2は〇である(民15,17条参照)。㉙問81参照。
3は×である。補助監督人の制度もある(民876条の8)。
4は×である。市町村長は補助開始の審判を申し立てることができる。
5は×である。特定の法律行為についての代理権でなければならない(民876条の9)。
正解2
基本的事項をしっかりと押さえていれば、解くことが可能である。
問題81 「日常生活自立支援事業実施状況」(2021年度(令和3年度)、全国社会福祉協議会)に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1 2021年度(令和3年度)末時点で、実契約者数は100万人を超えている。
2 2021年度(令和3年度)末時点で、実契約者数の内訳では、知的障害者等の割合が最も多い。
3 新規契約締結者のうち、約7割が生活保護受給者であった。
4 新規契約締結者の住居は、7割以上が自宅であった。
5 事業実施主体から委託を受け業務を実施する基幹的社会福祉協議会の数は、約300であった。
100万人は多すぎるのではないかと感じられればよい。令和2年3月末現在の 実利用者数は55,717人となっている。
2は×である。
割合が最も多いのは認知症高齢者である。なお、精神障碍者の割合は継続して増加傾向にある。
3は×である。
生活保護受給者が約7割というのは多すぎると感じられればよい。ただ、実際の割合は令和元年度で44.3%となっており、かなり高いことはたしかである。
4は○である。
令和2年7月の調査で、自宅76%、病院8%、施設8%、グループホーム8%となっている。
5は×である。
令和元年度で、当該基幹的社会福祉協議会の数は1,539となっている。
正解4
選択肢の1,2,3は、何となくおかしいと推測できるであろう。5は知識がないと判断しづらい。
問題82 家庭裁判所に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。
1 家庭裁判所は、近隣トラブルに関する訴訟を取り扱う。
2 家庭裁判所は、「DV防止法」に基づく保護命令事件を取り扱う。
3 家庭裁判所は、嫡出でない子の認知請求訴訟を取り扱う。
4 家庭裁判所は、労働審判を取り扱う。
5 家庭裁判所は、債務整理事件を取り扱う。
(注)「DV防止法」とは、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」のことである。
1は×である。
家庭裁判所は、大きく分けて少年事件と家事事件を取り扱っている。少年事件とは、少年(未成年者)が犯罪を犯した時(非行)に家裁が行う手続きである。家事事件とは、家庭内の紛争等を解決するための手続きである。
2は×である。
保護命令の申立ては,申立書に次のことを書いて,管轄の地方裁判所に提出して行う。
3は〇である。㉞問81参照。
4は×である。1の解説参照。
5は×である。1の解説参照。
正解3
家庭裁判所は、過去問で品番に登場している。本問は家庭裁判所が取り扱う事件についての理解を問うものである。
問題83 事例を読んで、消費者被害に関する次の記述のうち、X地域包括支援センターのC社会福祉士の対応として、最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Dさん(70歳)は、認知症の影響で判断能力が低下しているが、その低下の程度ははっきりしていない。宝石の販売業者Yは、Dさんが以前の購入を忘れていることに乗じ、2年にわたって繰り返し店舗で40回、同じ商品を現金で購入させ、その合計額は1,000万円に及んでいた。E訪問介護員がこの事態を把握し.X地域包括支援センターに所属するC社会福祉士に相談した。
1 Dさんのこれまでの判断を尊重し、Dさんに対し、今後の購入に当たっての注意喚起を行う。
2 Dさんの意向にかかわりなく、宝石の販売業者Yと連絡を取り、Dさんへの宝飾品の販売に当たり、今後は十分な説明を尽くすように求める。
3 Dさんの判断能力が著しく不十分であった場合、C社会福祉士自ら保佐開始の審判の申立てを行う。
4 クーリング・オフにより、Dさん本人にその購入の契約を解除させる。
5 これらの購入につき、消費者契約法に基づく契約の取消しが可能かを検討するため、Dさんのプライバシーに配慮して、消費生活センターに問い合わせる。
Dの判断を尊重することは大切であるが、Dは以前の購入を忘れており、2年にわたって繰り返し店舗で40回、同じ商品を現金で購入している。単に今後の購入に当たっての注意喚起を行うだけではX地域包括支援センターのC社会福祉士の対応としては不十分であろう。
2は×である。
Dの意思決定も尊重する必要があるので、「Dさんの意向にかかわりなく」の部分が不適切である。
3は×である。
C社会福祉士に保佐開始の審判の申立てを行う権限はない。
4は×である。
Dは自ら店舗に赴いて購入していると考えられるため、クーリング・オフの対象となる取引に該当しない。
5は〇である。
消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる」ようにしたものである。㉓問70参照。
正解5
消費者契約法に関連した出題は㉜問78で出題されているが、同法の取消しの要件を覚えていなければ自信を持って5を選ぶことは難しかったと思われる。その場合、消去法で選択肢を絞ってから、残った肢を比較して解く方がよい。