問題 44 N市の基幹相談支援センターで働くJ精神保健福祉士は, 精神科病院の長期入院者の地域移行を推進するため,N市における「障害者総合支援法」に基づく協議会(以下,「協議会」という。)において定期的に協議し, 地域移行における課題及びその改善策を検討していた。協議会のメンバーからは,「近隣のグループホームに空きがなく,体験宿泊の受入れも難しいことから, 退院後の生活をイメージできず退院支援がなかなか進まない」「退院し一人暮らしを始めて急な不安や不調を訴えたとき,支援が不十分で再入院になった事例が複数ある」との意見が出された。 J精神保健福祉士は,以上の課題への対策を協議会に提案し, 参加者に意見を求めた。
次のうち, J精神保健福祉士が協議会に提案したこととして, 適切なものを1つ選びなさい。
1 地域生活支援拠点の整備
2 日常生活自立支援事業の普及
3 住宅入居等支援事業の充実
4 福祉ホームの設置
5 成年後見制度利用支援事業の推進
(注) 「障害者総合支援法」とは. 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」のことである。
事例の理解が必要である。
論理型の問題といえるだろう。素直に読んで積極法で1を選びたいところである。とはいえ、消去法で確実に消せるもの消していっても構わない。
J精神保健福祉士はN市の
基幹相談支援センターで働いていて、精神科病院の長期入院者の地域移行を推進するため、「障害者総合支援法」に基づく協議会で定期的に協議をしている。協議会のメンバーから出た意見を要約すると、退院してグループホーム入居したくても数が少なくて入居が難しく、
一人暮らしを始めても急な不安や不調を訴えた際の支援が不十分だということである。これを前提にJ精神保健福祉士が提案する内容として適切なものは、1の地域生活支援拠点の整備だと考えるのが素直ではないだろうか。
問題なのはグループホームが少ないこともあるが、困ったときに支援を求める環境が整備されていないことだと考えられるからである。
入居にあたっての契約締結能力や地域で暮らす上での金銭管理の問題に重点は置かれていないので、2や5は×だと判断できる。また、入居できる家屋が少ないことが問題になっている訳でもないので3も×ぽい。1か4のいずれを選ぶかは、問題文の内容を再読して判断することになる。
【正解1】
問題 45 精神保健福祉士が担う職務に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
1 サービス管理責任者として, サービス等利用計画を作成する。
2 相談支援専門員として, 個別支援計画を作成する。
3 精神保健福祉相談員として. 在宅における生活介護を行う。
4 精神障害者雇用トータルサポーターとして, 職場適応訓練で指導する。
5 福祉専門官として, 特別調整など支援の必要な受刑者に対応する。
問題文をざっと読んで解決の糸口を探る。
1と2は交差法で判断できる。3と4は、相談援助を中心とする業務⇔実際の生活介護や指導などの業務との違いに気づけば×と判断できる。
1のサービス管理責任者が作成するのは2の個別支援計画であり、2の相談支援専門員が作成するのは1のサービス等利用計画である。
いずれか1つでもつながりがわかれば、交差法で1と2が消える。3の精神保健福祉相談員の仕事は、保健所や保健センターで、精神障害者やその家族の相談に応じて、病状の悪化を防ぐとともに、社会復帰できるようにさまざまな援助を行うことであり、在宅における生活介護は含まれない。4の精神障害者雇用トータルサポーターは、精神障害を有する求職者に対する相談に応じたり、専門機関に誘導したり、医療機関と企業との橋渡しをするなど、その名称からも推測できるように就労に関する総合的な相談に応じることが仕事であり、職場適応訓練で指導することは含まれない。5は〇であるが、もし
福祉専門官に関する知識がなくても消去法で本肢を選ぶことが可能である。以上から基本的知識があれば、何とか正解は導ける。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
福祉専門官は、刑務所から出所する高齢者や障害者の社会復帰を支援するために2014年度から刑務所に配置されることになった新しい職種である。その背景には、刑務所の高齢受刑者が増加していること、高齢者は引受人がいないなどの理由から仮釈放される割合が低いこと、出所後に再び入所する割合が高いこと、支援に手がかかる困難ケースが多いことなどがある。
【正解5】
問題 46 次のうち. 精神科リハビリテーションにおける地域ネットワーク形成の目的として, 適切なものを2つ選びなさい。
1 地域にある関係機関の指揮系統を明確にすること
2 新たなニーズに対応するための社会資源を創出すること
3 各機関による利用者への援助内容を同じにすること
4 再発を防止するために, 構成員が自由に利用者の治療内容を共有すること
5 精神障害当事者がサービス提供者となる道筋をつくること
解いて欲しい問題である。違和感のある選択肢を消去すれば答えは出る。
1のような
指揮系統の明確化が目的でないことは明らかであろう。×である。2は、地域ネットワーク形成の目的にぴったり合致するものであり○である。3のような
援助内容の均一化はネットワークの目的とはいえない。×である。 4は、再発防止のためとはいえ、
「自由に」治療内容を共有するのには違和感がある。×ぽい。5は、ネットワーク形成により、当事者がサービス提供者となる可能性が拡がるので、〇にしてよい内容である。
【正解2,5】
問題 47 次のうち, 精神障害者支援におけるアドヒアランスに関する記述として,正しいものを1つ選びなさい。
1 患者が専門職からの指示を遵守することをいう。
2 患者が積極的に治療方針の決定に参加し, 主体となって治療を受けることをいう。
3 専門職が本人のために最善と思われる方針を決定することをいう。
4 支援者が権利を侵害されやすい利用者に代わり, 権利を表明することをいう。
5 利用者が担当者以外の専門的知識を有する第三者に意見を求めることをいう。
アドヒアランスについては、服薬アドヒアランスという言葉を聞いた人は多いのではないだろうか。
服薬アドヒアランスは、患者自身が自分の病気を受け入れて、医師の指示に従って積極的に薬を用いた治療を受けることを意味する。
これを知っていれば積極法で2を選べる。もしまったく
アドヒアランスの意味がわからなければ、関係なさそうなものをまず消去してみる。例えば、4が
アドボカシーであること、5が
セカンドオピニオンであることはわかりやすい。1,2,3まで残ったら比較の視点ができる。
1と2は主語が患者で、3は専門職である。このような場合簡単に答えを選べることは少ないので、1か2だろうと推測してみる。ただ、その先はアドヒアランスの知識がないと迷うであろう。
英語が得意な人の中には、adhereが遵守するという意味であることから推測して、それに近い1か2まで絞った人もいると思われる。試験のときにそうした発想が力を発揮することは多い。ただ、アドヒアランスは、単に専門職が行ったことを遵守するという意味を超えて、肢2のような意味を有している。精神医学ではポピュラーな用語であり、精神科の病院で働いている人には簡単な問題だっただろう。ちなみに、1はコンプライアンス、3はあえて言えば代行決定であろうか。
【正解2】
問題 48 次の記述のうち, ソーシャルインクルージョンの理念に基づいた精神保健福祉士の活動として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 生活困窮者の生活支援では, まずは救護施設への入所を勧める。
2 障害福祉サービスの利用相談では, 病状の改善を前提とする。
3 就労準備支援では, 就労先との面接で病名を開示しないよう助言する。
4 ひきこもりの相談支援では, 医療を提供することから始める。
5 施設開設の準備会の役員に, 地域組織の代表の参加を依頼する。
消去法、積極法のいずれでも構わないが、確実に正解したい問題である。
ソーシャルインクルージョンは社会的包摂と訳されることが多い。これは基本的知識として知っておく必要がある。ちなみに、ソーシャルインクルージョンの対義語はソーシャルエクスクルージョンである。
1のように救護施設への入所を勧めるのは、もちろんインクルージョンではないので×。2のように、まず病状の改善を前提とするのもいまいちなので×。特に精神障害は病気と障害が併存するのだから。3は、
病名を開示した上で、職場に入っていくことこそがソーシャルインクルージョンだと感じて欲しい。本肢も×。4は、まず医療の提供から始めるという点でいまいちなので×(肢2と似た視点である)。5は、単独で読むとピントこないが、
施設開設にあたり地域組織の代表に準備会の役員に入ってもらうことで、施設の存在意義を地域社会の中に理解してもらうことを目指しており、ソーシャルインクルージョンの理念に基づいた精神保健福祉士の活動として適切といえよう。肢を消去していけば5にたどり着く。
【正解5】
(精神保健福祉の理論と相談援助の展開・事例問題1)
次の事例を読んで, 問題49から問題51までについて答えなさい。
〔事 例〕
Kさん(26歳女性)は大学卒業後Y社に就職した。配属された部署は残業が多く忙しい職場であった。直属の L 上司は Kさんを熱心に指導した。生真面目な Kさんは,L上司の期待に応えようと, 自宅に仕事を持ち帰って仕上げるように心がけた。そのため, 仕事が頭から離れず, 寝てもすぐに目が覚め, 食事も砂を噛んでいるようになっていった。体調の悪さを自覚したKさんは, 社内報に掲載されていたY社が契約している従業員支援プログラム(EAP)機関のことを思い出し, 相談に行った。そこで, K さんは担当のM精神保健福祉士に,「他の社員に迷惑が掛かるから休めない」「眠れなくてつらい」「このまま消えたい」と涙ながらに訴えた。M精神保健福祉士は,「よくここまで耐えてこられましたね」とねぎらった上で, 次のように提案した。
(問題49)
数日後, KさんはZ精神科病院を受診し,うつ病と診断され入院することとなった。1か月を経過した頃, Kさんは面会に来たM精神保健福祉士へ,「主治医が退院を許可してくれない。休んでしまった分, 早く穴埋めをしたいのに」と訴えた。面会の1週間後, M精神保健福祉士は, 主治医と KさんとL上司とで退院について協議した。そこで, M精神保健福祉士は次のことを提案した。
(問題50)
後日, 入院中であった Kさんは, 精神科デイケアを体験利用した。そこでは自分と同じような状況にある利用者と交流して, 焦っているのは自分だけではないと感じた。退院後, 精神科デイケアを利用し始めた。 3か月後, M精神保健福祉士は, デイケアスタッフ, 主治医, L上司, Kさんと仕事に関して話し合った。従業員に業務負荷を強く感じさせる労働環境の改善も必要だと, L上司も考えるようになった。
Kさんは負荷の少ない配慮された環境で仕事を再開した。それから数か月たった頃,M精神保健福祉士は労働環境の改善が必要と考え, L上司に「働き方を考える研修会」の実施を提案した。そこで, Kさんは体験談を語った。
(問題51)
研修会の後 KさんはM精神保健福祉士に,「初めは, 今までのように働けない自分を弱い人間だと感じていた。でも, 同じ病の人と出会い, 体が壊れるまで働くのは個人にとっても会社にとっても良くないと, 今は思う」と語った。
問題49 次のうち, この時点でM精神保健福祉士が提案した内容として. 適切なものを1つ選びなさい。
1 入院を勧める。
2 転職を勧める。
3 気分転換として旅行を勧める。
4 受診を勧める。
5 パワーハラスメントで訴えるよう勧める。
Kは仕事熱心のあまり、自宅にまで仕事を持ち帰り、不眠となり、その辛い状況を打開しようとMのもとに相談に来ている。
ここでMが提案した内容であるが、悩むとすれば(問題49)の次の段落の文章を参照するかどうかであろう。これは文脈によるといえる。本問では、数日後にKが受診していることから、この部分は参照すべきと考えられる。
1は、
精神保健福祉士であるMが入院の要否を判断するのは適切ではないので×。2は、Kに転職したいという事情はうかがえないので×。3の旅行の勧めは、Kが数日後に受診に行っていることから、考えにくく×。4は、その後のKの行動とも合致しており適切だといえる。5は、パワハラをうかがわせる事情が本文にはないので×。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
第21回の事例問題でも、設問の前後の文章を参照するべきかを考えさせられる問題があった(㉑-問53参照)。過去問を解きながら、どういう場合に参照するのがよいかの感覚を身につけよう。
【正解4】
問題50 次のうち, この時点でM精神保健福祉士が提案した内容として. 適切なものを1つ選びなさい。
l 「職場適応訓練制度を利用してはどうでしょうか」
2 「就労定着支援事業を利用してはどうでしょうか」
3 「リワークプログラムを利用してはどうでしょうか」
4 「ストレスチェックを受けてはどうでしょうか」
5 「職業評価を受けてはどうでしょうか」
問49は論理型の問題であるが、問50は選択肢にある各制度について知識を有していることが解くための前提になっている。
この段階では、Kの入院から1ヶ月以上が経過しており、面会に行ったMに対しKが
職場復帰の強い意欲を示していることがわかる。面会から1週間後にMが主治医とL上司に提案するとすれば、Mの退院後の処遇であろう。
うつ病で休職中のKが復職するに際し、病気の再発予防と職場への定着を意図して行う支援として適切なものは3のリワークプログラムである。
各制度の内容について心配なものがあればテキスト等で確認しておいて欲しい。簡単に結論を示すと、単に休職しているKに1と2はそもそも該当しない。4の
ストレスチェックも少しずれている。5の
職業評価も就職を希望する障害のある人を対象に行われるものであり、会社との労働契約が存続しているKには該当しない。
【正解3】
問題 51 次のうち, この場面において, M精神保健福祉士が果たした役割として,適切なものを1つ選びなさい。
1 スーパーバイザー
2 アドボケーター
3 エバリュエーター
4 メデイエーター
5 ファシリテーター
この場面では、Kが負荷の少ない配慮された職場で仕事を再開して数か月が経過しており、労働環境の改善が必要と考えたMがL上司に提案した「働き方を考える研修会」が実施され、Kは自ら体験談を語っている。
1は同職種の中で行われるものであり的外れ。2であるが、MはKに先んじて研修の実施を提案しているのでアドボケーターの役割を果たしているように見える。しかし、MはKのことだけでなく働き方全般を見なしてもらうために提案したのであり、Kも自らの権利利益の侵害と言うよりも
働き方に問題があったのでそれを見直すべきだというのが主張の骨子だとも思われる。アドボケーターよりも適切なものがあるかもしれないので、先に進む。3の
エバリュエーターであるが、本問でのKに対する支援はまだ継続中と考えられ、本研修をもって実践の効果の評価段階と見るのは不適切であろう。4の
メディエーターは調整役であり、クライエントと社会システムとの間で生じる葛藤(コンフリクト)を解決し、中立な立場で調整を図る役割をもつ(精神保健福祉士国会試験過去問解説集2020(中央法規)p276)。本問のMが果たした役割は、このメディエーターとも考えられる。5の
ファシリテーターは、研修や会議などを円滑に進めるため、集団活動そのものには参加せず、あくまで中立的な立場から活動の支援を行う役割を担う。ファシリテートは促進するといった意味である。Mは研修を提案したが、研修そのものが円滑に進むような役割を積極的に担ったという記述はない。
メディエーターは、それほどポピュラーな用語ではないと思うが、
⑳-問59で出題されている。2と4で迷った人が多いのではないだろうか。
【正解2】