問題 28 精神科病院で精神保健福祉士が行う人権擁護に関する次の記述のうち, 最も適切なものを1つ選びなさい。
l 「退院はさせないでください」という家族からの求めに応じ, 患者に入院の継続を勧める。
2 「もう歳だから」と退院を諦めている長期入院の患者に対して, 退院の動機づけを行う。
3 「もう家に帰ります」と突然怒り出した患者を心配し, 隔離室に入室させる。
4 「迷惑電話で困っている」という近所の店舗からの苦情を受け, 患者が電話をかける機会を制限する。
5 「二人だけで面会させてください」と希望する患者の病状を面会時に判断して, 面会に立ち会う。
精神保健福祉士の全体的な職務と精神保健福祉士が行う人権擁護とを混同しない様にしよう。
1は、精神保健福祉士が行う人権擁護として×であることが明らか。2は、
年齢を理由に退院を諦めている患者に、退院の動機づけを行うのは精神保健福祉士として適切な行為だと思われる。〇ぽい。3は、
いきなり隔離室に入室させるのは患者の権利に十分配慮したものとはいえないだろう。×ぽい。4は、近所の店舗の人の利益に配慮しているが、患者の利益(通信の権利)を十分に尊重しておらず×であろう。5は、実際にも面会に立ち会うことが必要な場合は考えられる。それはもちろん精神保健福祉士として必要な判断でもあるだろう。ただし、それを人権擁護と呼ぶのはおかしい。
【正解2】
問題29 マクロ領域のソーシャルワークに関する次の記述のうち. 適切なものを2つ選びなさい。
1 社会福祉制度が効果的に運用されるために環境の調整や整備を行う。
2福祉問題の原因を社会構造から捉え, 個人の変化を促す支援を行う。
3 福祉関連施策の分析や充実に向けた活動を行い, 社会の変革を進める。
4 グループの持つ力動を活用し, 個人の成長や個人と社会環境との関係調整を行う。
5 福祉サービス利用者とその家族に働き掛け, 家族内ネットワークを形成する。
ミクロ-メゾ-マクロの違いを知っていることは当然の前提である。
1はパッと見はミクロに見えるが、とりあえず△にして次に進む。2は、ミクロなので×。3は、ずばりマクロであり〇。4は少なくともマクロではないから×。5もマクロとはいえず×。3以外では、2,4,5の×がわかりやすい。1と2の記述は、ケアレスミスをおかしやすい。
【正解1,3】
(精神保健福祉相談援助の基盤・事例問題1)
ある日, E 精神保健福祉士の下に 以前支援していた Fさんから手紙が届いた。次の手紙(事例)を読み, 問踵 30 から問題 32 までについて答えなさい。
〔事 例〕
前略
お久しぶりです。お元気でしょうか。私は変わりなく, 毎日W地域活動支援センターに通っています。先日, 心の整理もつき, 母が亡くなってから 3年ぶりに, やっとお墓参りに行ってきました。そこでふとEさんのことを思い出し, 手紙を書かせていただきました。Eさんにお会いしたのは,入院して10年が過ぎようとした頃でした。あの頃は長い入院生活が続き希望も持てず, スタッフにやってもらうことが当たり前の, 全てが受け身の生活でした。(問題 30)
しかし病気の母を看取りたいと思うようになり退院しましたよね。間もなく母が亡くなり, 何か昼間にできることはないだろうかとEさんに相談しました。
私はこれまでの人生を振り返り, 母に従ってきたこと, それが正しいことだと思っていたことを話しました。Eさんは私の話をじっくりと聞き,「これまで, 大変だったのですね。でも今のFさんは退院後も規則正しい生活を送り, 何かをしてみたいという向上心がありますよね」と話してくれました。(問題 31)
相談の後 Eさんが立ち上げに関わったW地域活動支援センターを紹介され, 自由に話し合える雰囲気が気に入り利用することにしました。そこで病気について勉強する講座を受講したところ, 仲間同士が支え合う活動に興味が湧きました。自分の経験をいかせるのではないかと。そして, ピアサポーターとしてW地域活動支援センターで活動を始めました。そのことを知ったEさんが来て,「ここのスタッフとして働いてみては」と言われましたよね。あの時は正直驚きました。 ピア同士だからできていた話を仕事にすることや, 利用者からスタッフに変わることによる立場の違いに戸惑いを覚えたからです。(問題 32)
今も十分とはいえないですが, 何とか仕事も続いています。入院中には今の私を想像すらできなかったです。お墓参りで母に報告もできました。Eさんもお忙しいと思いますが, ご自愛ください。またお会いできる日を楽しみにしています。かしこ
問題 30 次のうち, この時点でのFさんの状態を示す用語として,適切なものを1つ選びなさい。
1 パターナリズム
2 バーンアウト
3 モラトリアム
4 インステイテューショナリズム
5 カタルシス
「この時点でのFさんの状態」は、入院から10年が経過し、希望もなく、身の回りのこともスタッフにやってもらう受け身の状態を指している。
この時点でのFさんの状態から、ホスピタリズム(施設病)が思い浮かぶ。英語の
インスティチューション(institution)は、(公共の)機関、病院、施設、団体、制度、法令などを意味する単語である。
1、2が×であることはわかりやすい。3のモラトリアムもずれているので×。4は聞きなれない言葉である。△にして次に進む。5の
カタルシスは、浄化といった肯定的なイメージの言葉である。これは×であろう。消去法で選ぶ。
【正解4】
問題 31 次のうち, この時に E精神保健福祉士が行ったアプローチとして, 適切なものを1つ選びなさい。
1 課題中心アプローチ
2 ナラテイプアプローチ
3 解決志向アプローチ
4 システムズアプローチ
5 ストレングスアプロー チ
問題文をしっかりと読めば、自ずと答えがわかると思う。
迷ったら、また問題文に戻る。
この時にE精神保健福祉士は、Fの話を受容、傾聴した後、「今のFさんは退院後も規則正しい生活を送り, 何かをしてみたいという向上心がありますよね」と言っている。
これはFの持つ力に着目したものである。実際に、その後の記述を読むと、W地域活動支援センターに通うようになり、自分の経験を活かしてピアサポーターとしての活動をするようになったことがわかる。このような
利用者のもつ強み、力に着目したアプローチは、ストレングスアプローチである。
【正解5】
問題 32 次のうち, この時点での Fさんの状態を表す用語として, 適切なものを 1つ選びなさい。
1 アンビバレンス
2 対処能力
3 役割葛藤
4 二重拘束
5 スティグマ
この時点でのFさんの状態というのは、利用者の仲間という立場からスタッフのという立場に変わり、その違いに戸惑っていることを指す。
問題30と異なり、積極法で解くほうがよい。
この状態を表す用語として適切なものは、社会理論と社会システムでよく登場する3の
役割葛藤である。1の
アンビバレンスは、ある対象に対して、相反する感情を同時に持ったり、相反する態度を同時に示すことであるが、少しずれている。2の対処能力は、無関係とはいえないが役割葛藤に比べて浅い。4は拘束されてはいないので×。5の
スティグマは、ここでは何ら問題にされていない。
【正解3】
(精神保健福祉相談援助の基盤・事例問題2)
次の事例を読んで,問題33から問題35までについて答えなさい。
〔事 例〕
Gさん(26歳,男性)は,大学生の時には相手の話した冗談を言葉どおりに受け取ってしまいトラブルに巻き込まれることもあったが,趣味の合う仲間もいて楽しく過ごすことができていた。しかし,就職してからは,元々あった音に対する敏感さに加え仕事の内容ごとに手順が異なり,戸惑うことが多くあった。異なる指示を受け混乱していたGさんはささいなミスを続けてしまい,上司からきつい注意を受けたことがきっかけで,休みがちとなった。Gさんには相談相手もおらず, 1 年もしないうちに自主退職してしまった。その後の求職活動では,書類選考や筆記試験では問題はないものの,面接になるとうまく話すことができず不採用が続いた。そのうちに,「もう何をやってもだめなんだ」と仕事探しをやめ, 自宅で家族との接触も避け,自室に籠るようになっていった。
このような本人の様子を心配した両親は,近所のXメンタルクリニックで相談していたが,ある日,両親と一緒にGさんが初めて受診した。そこで,担当となったH精神保健福祉士が,「今日はよく来てくれましたね」と本人を迎え,初回面接を行った。
(問題33)
H精神保健福祉士は,数回の面接で,「周りがうるさいと仕事に集中できない」「パソコンでの作業は長時間集中できる」「急な予定変更には対応が難しい」「就職はすぐにしたいが,今はまだ自信がない」と話すGさんの状況から,地域若者サポートステーションの利用を勧めた。
(問題34)
その後地域若者サポートステーションの利用を始めたG さんは, 3 か月たったある日の面接で,職場体験プログラムで会社訪問に行った時の様子を語りだした。「指示が具体的で手順が明確だ」「イヤホンを着けたままできるパソコン作業は,手際が良いとスタッフから褒められた」と満足気に話し,「自分にも仕事がやっていけそうだ」と嬉しそうに続けた。
(問題35)
問題33 次の記述のうち, この時点でH精神保健福祉士がGさんに掛ける言葉として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 「引き籠るようになったきっかけは何ですか」
2 「利用したいと思うサービスを教えてください」
3 「両親とよく話をしますか」
4 「これまで受診しなかったのはどうしてですか」
5 「今、家でどんな生活をしていますか」
こういうときは、自分なりに問題を具体化する視点を考えるしかないのではないだろか。
この時点とは、初回面接の場面を指す。選択肢を一読しても、H精神保健福祉士がGさんに掛ける言葉としてよさそうなものを掴みづらかった人が多かったのではないだろうかである。
①例えば、
初回面接(インテーク)では、利用者との信頼関係を作ることが大切なので、まずは利用者のことをざっくりと聞けるような質問を行うべきである。この視点から、みると5がよいのではないかとか、②あるいは、質問に着目してみて何らかの形で分類できないか、
本問の場合、1,2,3,4は閉ざされた質問といえるが、5は
開かれた質問なので、仲間外れの5を選ぼう。③どうしても視点が見つからなければ、自分が一番いいと思うものを選ぶしかない。
本問は、意外と答えが割れたのではないかと思われる。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
この科目は常識で解けるという人は、優れた相談援助のセンスの持ち主でもある。そういう人は、特に悩むこともなく正解を見つけたりする。そこまでのセンスがない人は、インテークの場面で注意すべきことを思い出し(あるいは考え)、選択肢の内容を検討する。それも難しければ、形式的に解けないかと考えて、選択肢を分類して仲間外れがないかと探してみる。おそらく出題者は、インテークの場面で注意すべきことを念頭に置いた上で、それを選択肢の発言にあてはめて適否を判断して欲しかったのだと思われる。ただ、それがうまくいかなかったとしたら、別の視点でもよいので自分なりに根拠を持って答えるための方法を探すしかない。
【正解5】
問題34 次のうち, この時点でH精神保健福祉士がGさんに, 地域若者サポートステーションの利用を勧めた理由として,適切なものを1つ選びなさい。
1 日常生活リズムを確立するため
2 協調性などの対人関係能力を向上させるため
3 職業適性を見極めるため
4 家族関係を改善するため
5 障害受容を深めるため
(問題34)の段落をしっかりと読む。
1は、
地域若者サポートステーション(サポステ)は相談機関なので、そこを利用したとしても日常生活リズムが確立されるかどうかは微妙である。×ぽい。2は、
サポステにコミュニケーション訓練があることを知っていれば、これも適切なものとなりうる可能性があると判断できる。ただ、Gは周りがうるさいと仕事に集中できないと言っているものの、特にコミュニケーション能力に劣るような発言はない。よって、文脈との関係で2は×と判断すべきである。3はサポステの中身を知らないと判断しづらかったであろう。すなわちサポステが単なる仲間の集まりぐらいのものだと考えた人は(実際は違う)、本問は×でないかと判断してしまったであろう。しかし、
サポステではキャリアコンサルタントによる専門的な相談も行われている。Gは、すぐにでも働きたいという意欲はあり、パソコンでの作業に長時間集中できること、急な予定変更には対応が難しいといったこと、をHに話しており就労意欲は高い。こうしたことから考えると、HがGにサポステを勧めた理由は、職業適性を見極めることにあったと考えるのが素直であろう。4は、まったくそれを感じさせる記述がないので×。5も同様に×である。
地域若者サポートステーション(愛称:「サポステ」)のことを知っていた人は、比較的解きやすかったであろう。反対に、知らなかった人は、サポステを自分なりにイメージすることになるが、そのイメージによって答えが歪んだ人もいたであろう。もっとも知らなかったとしても、(問題34)の段落からGに必要な支援は何かを考えて正解を導き出した人もいるであろう。施設(機関)の名称は大体特徴を表していることが多い(名は体を表す)が、知らない場合はぎりぎりまで文脈から判断するほうがよいと言えそうである。
ソーシャルワンカーと一緒にワン ステップUP‼
サポステでは、働くことに悩みを抱えている15歳~39歳までの若者無業者に対し、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への就労体験などにより、就労に向けた支援を行っている。サポステは、厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがあるNPO法人、株式会社などが実施しており、「身近に相談できる機関」として、全国の人が利用しやすいよう全ての都道府県に設置されている。
【正解3】
問題35 次のうち, この時点でのGさんの状態に関する用語として, 適切なものを1つ選びなさい。
1 セルフコントロール
2 セルフエフィカシー
3 セルフスーパービジョン
4 セルフケア
5 セルフアドボカシー
本試験では、元の英語の用語と日本語訳をあてられた用語のいずれか一方を出してくることがある。
(問題35)の段落の時点で、Gは、職場体験プログラムで訪問した会社では、指示と手順がよく、自分が行ったパソコン作業をスタッフから誉められたことを語り、ここなら仕事を継続できそうだと嬉しそうに話している。
このようなGの状態に関する語として最も適切なものは
セルフエフィカシー(自己効力感)である。
セルフエフィカシー(自己効力感)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることを指す。心理学者の
アルバート・バンデューラが提唱した概念である。知らなかった人は、まったく違うものを選んでしまったかもしれない。ちなみに「自己効力感」 は前年の
㉑‐問50で出題されている。
【正解2】