問題98 ソーシャルワークに影響を与えたシステム理論に関する次の説明のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ホメオスタシスとは, システムが恒常性を保とうとする働きである。
2 システムとは, 複数の要素が無機的に関わり合っている集合体である。
3 開放システムの変容の最終状態は, 初期条件によって一義的に決定される。
4 外部と情報やエネルギーの交換を行っているのは, 閉鎖システムである。
5 サイバネティックスとは, システムが他の干渉を受けずに自己を変化させようとする仕組みである。
システム理論がその後のソーシャルワークに影響を与えたことは多くの人が知っているだろうが、システム理論そのものについて詳しい人は少数派であろう。
2,3,4が×であることはわかりやすいが、1と5のいずれを選ぶかで答えが割れたと思われる。
1の
ホメオスタシスは、環境が変化しても体の状態を一定に保とうとする生体的働きのことである(人体の構造と機能及び疾病の重要タームである)。これをシステム理論に応用すると
「システムが恒常性を保とうとする働き」というふうになるのだろうと推測できる。2は、「無機的に」が×ぽい。3は、「開放」と「初期条件によって一義的に決定される」が整合せず×ぽい。4は「外部と情報やエネルギーの交換」と「閉鎖システム」が整合せず×ぽい。5は馴染がない人が多いのではないだろうか。「他の干渉を受けずに」の部分がおかしいと感じられれば十分だと思われる。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
サイバネティックスとは
1947年にアメリカの数学者N.ウィーナーによって提唱された一つの学問分野。厳密な定義はないが,心理学や社会学等の研究分野で活用されている。ウィーナーは対象をある目的を達成するために構成されたシステムとしてとらえた。
【正解1】
問題99 岡村重夫が述べた社会福祉の一般的機能に関して, 最も適切なものを1つ選びなさい。
1 評価的機能は,援助者が,対象者の参加なしに対象者が抱える生活困難を評価するために発揮される。
2 調整的機能は,専門職間で生じている不調和の解決を図るために発揮される。
3 送致的機能は,援助者の所属機関が対象者の主訴に対処できないとき, 適切な機関に対象者を紹介するために発揮される。
4 開発的機能は,個人の社会関係能力条件を開発するために発揮される。
5 保護的機能は,個人が必要とする保護を永続的に提供するために発揮される。
岡村重夫の社会福祉理論は異彩を放っており、試験でも数年おきに出題されている。
本問は岡村が述べている社会福祉の一般的機能について問うものであり、著書の『社会福祉原論』に掲載されている。
もっとも、この本で述べられている内容を
すべて正確に覚えておくことなど普通の受験生には無理であろう。それぞれの機能を想像しながら、各選択肢の内容を吟味していけば最も適切なものがわかるのではないかと思われる。
1は「対象者の参加なしに」が×ぽい。2は、「専門職間で生じている」が×ぽい。3は、全体として問題のない記述であり、説明部分は
送致的機能にも合致している。〇ぽい。4の説明は社会福祉の
開発的機能としては狭い感じがするので、×ぽい。5の説明は社会福祉の
保護的機能としてズレている感じがするので、×ぽい。
ソーシャルワンカーと一緒にワン ステップUP‼
・評価的機能:訴えられる生活困難は,どのような社会関孫の困難を含むのかを分析し,どの社会開拓のどの側面における困難を含むかを明かにする。
・調整的機能:対象者が「社会協同的地域社会」の「一員」として認められ活動できるように,調整していく。
・送致的機能:欠損した社会関係を回復させるか,あるいはそれに代わる新しい社会関係を見いだすように援助する機能。
・開発的機能:新たに専門分業的生活謁連施策を開始させたり,制度的集団を新設して,社会関係の回復を容易にするような社会資源を作りだす機能。
・保護的機能:送致,開発という社会関係の維持・修復の機能によっても,なお援助対象者が社会関係の全体的調和を実現しえないとき,あるいは実現するまでのあいだ,一般的専門分業制虔の要求基準を緩和した特別の保護的サービスを提供するのが,社会福祉の保護的機能。
【正解3】
問題100 事例を読んで, H 児童福祉司(社会福祉士)の家族システムの視点に基づいた対応として, 最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事例〕
父(43 歳)と母(39 歳)と暮らしているJ 君(12 歳)は, 真夜中に繁華街を徘徊(はいかい)していたところ警察に補導された。親と連絡がつかないため, W児童相談所に保護された。W児童相談所のH児童福祉司がJ 君に家族について尋ねたところ, 父母は仕事が多忙で, 今日も母親から渡されたお金で夕食を食べるために繁華街に来ていたことがJ 君から語られた。
1 J 君の行動は父の無責任さによるものと考え, 父への介入に焦点を当てる。
2 J 君に, 真夜中に繁華街を徘徊しないよう指導する。
3 J 君に, 父や母がJ 君のことをどう思っているかを尋ねる。
4 J 君に, 一時的に親戚宅で生活するよう提案する。
5 J 君の心情を考え, 今以上にJ 君に関わるよう, 母親を指導する。
家族システムの視点という条件が付けられ、児童福祉司(社会福祉士)の対応が問われているが、家族システムの正確な知識が無くても解ける問題である。
家族システム論は、一般システム論やサイバネティックスを基礎にして誕生したものである。そのため家族成員間の相互作用を当然に重視しているし、家族の中で生じている問題を一方向からではなく、複眼的、多面的に捉える。
1は勝手な推測に基づくものであり×。2は一般論としては正しいが家族システムの視点は何らない。×である。3はJ 君の両親に対する思いを聞き、家族関係を分析しようとするものであり○ぽい内容である。4は一つの方法だが、家族システムの視点に欠けるので×。5は問題点を分析しないまま母親を指導する点で家族システムの視点が薄い。最も適切とはいえないだろう。
【正解3】
問題101 ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次の記述のうち, 最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ランク(Rank, 0,)の意志療法は, 利用者の過去に着目し, 利用者のパーソナリティの構造や自我の働きを捉える診断主義学派の礎となった。
2 ロス(Ross, M,) のコミュニティ・オーガニゼーション説は, 地域における団体間調整の方法としてのインターグループワークを提唱した。
3 ホリス(Hollis, F, )の心理社会的アプローチは, 診断主義学派と機能主義学派,両アプローチの折衷アプローチであり, 両学派の統合を試みた。
4 タフト(Taft, J,)ら機能主義学派は, ソーシャルワー・カーが所属する機関の機能に着目し, 機関におけるソーシャルワーカーの役割を重視した。
5 パールマン(Perlman, H, )の問題解決アプローチは, 精神分析や自我心理学の理論を否定し, 人・状況•その双方の関連性においてケースワークを捉えた。
パールマンまでの基本的な学説の流れとインターグループワークの提唱者を知っていれば正解は導ける。
選択肢の人名はいずれも過去問で出ており、有名な人物である。知らない人がいれば、交差法、消去法なども使いながら正解を探す。
1の説明部分は
診断学派のものである。
ランクの意志療法は、利用者の過去に着目するものではないし、診断主義学派の基礎となったものではない。×である。2の説明部分は
ニューステッターの考えであり×である。 地域福祉論ではポピュラーな知識である。3の説明部分は
ホリスではなく5の
パールマンの考え方である。少なくとも3は×である。4の
タフトは機能学派に分類されており、説明部分も正しい。知っていれば、これが〇であろうと推測できる。5のパールマンは3の説明にあるように
診断主義学派と
機能主義学派を折衷した考え方である。説明部分は一見よさそうだが、「精神分析や自我心理学の理論を否定し」という部分がおかしい。ところで、本問では3の説明部分が5のパールマンと結びつくので、その時点で3と5は×だと推測した人もいるかもしれない。本問では結果オーライであるが、
一人の人物(用語)と理論(説明)の対応が1対1とは限らない場合があることにも注意する必要がある。本問で5の説明部分が×なのは、それが別人の考えだからではない。精神保健福祉士では、そのようなパターンが以前から存在している。今後は社会福祉士でもそうしたパターンが出現する可能性は十分にある。
交差法を使うときには、注意して欲しい。
【正解4】
問題102 事例を読んで, Kソーシャルワーカー(社会福祉士)の援助の初回面接における応答として, 適切なものを2つ選びなさい。
〔事例〕
X小児がん拠点病院のKソーシャルワーカーは医師からの依頼で,これからの治療や生活に対する支援実施のため,同院の血液腫瘍科で小児がんと告知された女児(3歳)の両親と面談することになった。面接の冒頭, 目を真っ赤にした母親は,「先生から娘の病気の説明は受けましたが,現実味がありません。ただ,なぜと繰り返し考えてしまいます。私たちの娘はなぜ3歳でがんになったのですか。できることなら私が代わってあげたい」と訴えた。
l 「今は混乱しているでしょうが,そのうち冷静に考えることができますよ」
2 「同じ経験をされている方はたくさんいます。その方々と会ってみませんか」
3 「ご心配が募る中でも娘さんの病気に向き合おうと努めておられるのですね」
4 「今は治療も進歩しているので大丈夫。安心して治療に専念しましょう」
5 「これからの治療や生活について,ご一緒に考えていきたいと思います」
問われているのは、初回面接における応答である。受容と傾聴が基本となる。
過去問で正解として公表されているものを参照すれば、社会福祉士に何が求められているのかを掴むことができるであろう。
1は×である。
受容も
傾聴もない。2も×である。これでは
受容とはいえまい。3は
受容した上で母親の姿勢を表現したものである。〇ぽい。4は
受容もないし、発言内容も軽率過ぎるであろう。×ぽい。5は
受容と
傾聴とは少し違うかもしれないが、これから一緒に考えていきたいというKの気持ちを伝えることは不適切とまではいえないだろう。私なら適切なものとして3と5を選ぶ。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
適切なものを選べという問題は、正しいものを選べという問題と違い、いかようにも考えられると感じる人もいるかもしれない。たしかに、ある法律や規則に書かれているような場合とは異なり、客観的な根拠に乏しいともいえる。しかし、試験時間中に問題に文句を言うことはできない。
本問であれば、社会福祉士による援助の初回面接における対応として適切なものを選ぶのだから、理想的な社会福祉士像を念頭において、初回面接という場面を意識した対応を考えるしかない。社会福祉士会における倫理綱領や面接の各段階における留意事項が問われていると考えれば、それなりに根拠をもって答えることは可能だと思われる。この辺りの感覚は、過去問学習を積み重ねる中で、慣れていくしかない。頑張れ!
【正解3,5】
問題103 相談援助の過程に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
l プランニングとは, 人と環境の相互作用の枠組みで情報収集及び分析を行う段階である。
2 エバリュエーションとは,ソーシャルワーカーとクライエントが出会い,信頼関係を構築する段階である。
3 コーピングとは,実施されているサービスが適切に提供されているか事実確認を行う段階である。
4 インテークとは,支援の成果を評価し,その状況によっては終結へと進む段階である。
5 インターベンションとは,援助計画に沿って支援を実施していく段階である。
インターベンションの意味を覚えてなかった(忘れていた)としても、いくつかの用語を知っていれば、正解できる問題。
消去法、交差法で正解を導くことが可能である。
1の
プランニングは計画を意味するから×である。説明部分は
アセスメントである。2の
エバリュエーションは、支援後に評価をする段階なので×である。
エバリュエーションは、4の説明部分が対応している。3の
コーピングは自分のストレスに対して意図的に行う対処なので、×である。説明部分は
モニタリングである。4の
インテークは相談者に対して最初に行われる面接なので、×である。インテークには2の説明部分が対応している。5の
インターベンションは介入と訳されるものである。説明部分は介入にも合致している。本肢が最も適切であろう。
【正解5】