問題84 社会調査に関する次の記述のうち最も適切なものを1つ選びなさい。
1 貧困の実態調査などの社会調査を基に,社会改良が行われることもある。
2社会調査は. 研究者が個人ではなくて共同で行わなければならない。
3 報道機関が行っている世論調査は,社会調査には含まれない。
4社会調査は,社会福祉援助技術として有効な方法ではない。
5社会調査は, 数最的データとして結果を提示できなければならない。
内容もさることながら、文章表現の仕方から解くことができる問題である。
所謂、~なこともある〇、断定的・限定的表現✕のパターンである。
1はよさそうな記述である。2は研究者が個人で行ってもよいので×である。3の報道機関の
世論調査も社会調査に含めてよいので×である。4は
社会福祉援助技術としても有効であるから×である。5は
質的調査があることからもわかるように、
数量的データとして結果を提示できなくてもよい。×である。最も適切なものは1である。
【正解1】
問題85 2007年(平成19年)の統計法改正に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
1 調査票情報の利用制度が変わり, 目的を問わず誰でも二次利用できるようになった。
2 改正の目的は,公的統計の位置づけを「行政のための統計」から「社会の情報基盤としての統計」へと転換させることである。
3 基幹統計は,それ以前の指定統計と異なって, 回答の義務を規定している。
4 統計委員会は, 各都道府県に設置されるようになった。
5 調査対象者の秘密保護の扱いは, 改正前と変わっていない。
2007年(平成19年)の統計法改正を知らなければ推論で解くしかない。
1は「目的を問わず誰でも」が×ぽい。2は内容的に問題ない。2007年当時の改正で情報公開を鮮明に打ち出していたことも十分に考えられる。〇ぽい。3は「回答の義務を規定した」の部分が×ぽい。4は理想的かもしれないが、「各都道府県」に置くことは予算的にも現実的にも厳しそうなので×ぽい。5は知らないと自信を持って答えられないが、
2007年頃であれば「調査対象者の秘密保護」の扱いを改正前よりも何らかの形で変更したと考えるのが素直であろう。知らなければ2と5を比較して決めるしかないが、2のほうが無難な記述であろう。
【正解2】
問題86 調査対象者の抽出に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
1 標本抽出方法の確率抽出と非確率抽出では, 非確率抽出の方が母集団に対する代表性が高い方法である。
2 適切に抽出された標本調査であれば, 標本誤差は生じない。
3 調査対象者の多段抽出は, 単純無作為抽出に比べて母集団の特性を推定する精度が高い。
4系統抽出法は, 抽出台帳に一定の規則性がある場合には, 抽出した標本に偏りを生じることはない。
5 スノーボール・サンプリングは, 非確率抽出法の一つである。
基本的な知識がしっかりと押さえられていれば、正解を導くことができる。
1は、
確率抽出の方が非確率抽出より母集団に対する代表性が高いので×。2は、
適切に抽出された標本調査であっても標本誤差は生じるので×。3の
多段抽出とは、標本の抽出を複数の段階で行う方法である。多段抽出は単純無作為抽出に比べて母集団の特性を推定する精度が低いので、本肢は×である。4の
系統抽出法で、抽出台帳に一定の規則性があると、抽出した標本に偏りを生じることは容易に推測できるだろう。本肢は×である。
スノーボール・サンプリングは、最初の対象者・対象集団に,友人・知人を紹介してもらい,雪だるま式に協力者を増やしていく方法である。このことを知っていれば、非確率抽出法(有意抽出法)であることはすぐにわかるはずである。本肢が〇である。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
この類の問題は、結論だけではなく、なぜそうなのかを自分が納得できるまで考えてみて欲しい。
例えば、肢3の多段抽出は、全国の世帯を対象として調査を行う場合、まず全国からいくつかの市町村を無作為に抽出し(第一段)、次にその市町村内で地点を無作為に抽出し(第二段)、さらにその中で世帯を無作為に抽出する(第三段)というものである。
多段抽出のメリットは、対象者を訪問面接する際に、対象者が地点ごとにまとまっているため、調査員の移動距離が少なく、効率的に調査ができることにある。
しかし、グループを絞っていくという性質上(グループ自体に特性がある可能性がある)、単純無作為抽出法よりも代表性が低くなる。
【正解5】
問題87 量的調査の測定尺度に関する次の記述のうち, 最も適切なものを1つ選びなさい。
1 名義尺度は, 代表値を求めることはできない。
2 順序尺度は, 測定値の大小や優劣を意味しない。
3 間隔尺度は, 測定値の間隔を数最的に表現できない。
4 比例尺度は, 数値の間隔が等しいだけでなく数値の比も意味を持つ。
5 名義尺度, 順序尺度, 間隔尺度, 比例尺度は, いずれも標準偏差を計算することに数最的な意味がある。
4つの尺度は過去問でも何回か問われている。本問は、4つの尺度の違いを様々な観点から問うものである。
一つ一つの記述を丸暗記する方法では間違いを起こしやすい。それよりも4つの尺度の具体例を一つずつ覚えておけば、後はその場で考えれば何とか解くことはできる。普段の勉強でも個々の記述の意味を理解しながら勉強しておくとよい。そうすれば、応用力を試す問題にも対処しやすい。
1の
名義尺度の具体例は、男女や苗字である。名義尺度も
最頻値のような代表値は求められるので、×である。
順序尺度は、1位、2位、3位のような順番を尺度として用いる場合である。測定値の
優劣は意味するので×である。3の
間隔尺度の具体例は、気温や年号である。測定値の間隔を数最的に表現できることはすぐにわかるであろう。×である。4の
比例尺度の具体例は身長や体重である。まさに数値の間隔が等しいだけでなく数値の比も意味を持つ。本肢が〇となる。5は、少なくとも
名義尺度について
標準偏差を計算することに数最的な意味がないことに気づければよい。本肢は×である。
【正解4】
問題88 質問紙の作成に関する次の記述のうち, 適切なものを2つ選びなさい。
l ダブルバーレルは, 質問の中に三つ以上の論点を含めないようにする作成方法である。
2 リッカート尺度は,「当てはまる」「どちらともいえない」「当てはまらない」などというように多段階で程度を測定する選択肢で回答を求めるものである。
3 キャリーオーバー効果は, 前に回答したことが, 後に続く質問の回答へ効果的な影響を与えるので, 積極的に用いるのが望ましい。
4 質問紙の作成においては全て〇や数字で回答するようにし, 文字の記述を求める自由回答の欄を設けてはいけない。
5 フェイスシートは, 回答者の年齢, 学歴, 家族構成などの属性を回答する欄である。
リッカート尺度という用語は、過去問で直接に問われたことはなかったように思う。
知識がなくても消去法で答えは出せる。
1は2つ以上の論点を含む場合でも×である。
ダブルバーレル(double-barreled)とは二連式のという意味である。この説明は、理解しやすくて記憶に残りやすかっただろうか?2は〇である。
リッカート尺度とは、このことである。もし知らなかったら次に進む。3の
キャリーオーバー効果は、避けるべきだと言われている。本肢は×である。4であるが、質問紙に文字の記述を求める自由回答の欄を設けることには何ら問題がないので×となる。5は、「えっ」という感じがするが、これを×にすると適切なものを2つ選べなくなる。1,3,4が×であることは明らかなので、適切なものとしては2,5を選ぶ。
【正解2,5】
問題89 量的調査の集計と分析に関する次の記述のうち, 正しいものを1つ選びなさい。
1 質問紙調査のデータを集計する際に, 全体的な回答の分布を見たい場合に, 度数分布表を用いることはない。
2 データの分布を代表する値として平均値を用いておけば, 中央値や最頻値は見なくてもよい。
3 標準偏差は, 調査データが全体としてどれぐらい平均値から離れて散らばっているのかを表す指標の一つである。
4 推測統計とは, 収集されたデータそのものの特徴を記述するための方法である。
5 オッズ比は, 分布の左右対称性に関する指標である。
きちんと説明することは難しいかもしれないが、テキストの記述を理解しようと努力して勉強していた人は何となく解けたのではないだろうか。
1は、全体的な回答の分布を見たければ
度数分布表を用いることもあるだろう。×である。2は、
平均値を用いたとしても分布に大きな偏りがある場合には
中央値や
最頻値を見た方がよい場合も当然存在するので×である(例として所得分布)。3は、一読して〇ぽいと感じた人も多かったのではないだろうか。いわゆるテストの
偏差値を思い浮かべてもよい。4は、
「推測統計」と「収集されたデータそのものの特徴」とが噛み合わない感じがするので×ぽい。5の
オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度である。例えば、喫煙者と非喫煙者で不整脈の有無に差があるのかを調べたような場合にオッズ比が用いられることがある。正確に理解していなくても、
分布の左右対称性に関する指標ではなさそうだと感じて、本肢は×ぽいと感じられれば十分である。1から4 までは基本的知識の応用で正誤の判断は可能だと思われる。5のオッズ比については、
㉗‐問87で出題されている。
【正解3】
問題90 調査の情報の整理と分析に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
l グラウンデッド・セオリー・アプローチにおける軸足コーデイングは,単一のカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連づける方法である。
2 プリコーディングとは,自由記述や事前に数値化が困難な回答に対して,調査者が後からコードの割当てをすることをいう。
3 会話分析の関心は,調査対象者がどのように日常的な相互行為を秩序立てて生み出すのかを解明するために,会話内容ではなく,会話の形式や構造に向けられる。
4 ミックス法は,質問紙などの量的調査とインタビューなどの質的調査を組み合わせる方法である。
5 インタビューデータの分析において,対象者が使っている言葉をそのままコードとして用いることをオープン・コーデイングという。
問題文の冒頭にあるように「調査の情報の整理と分析」をテーマにした問題である。
知識がないと解くのは難しいと思われる。
コーディングとは、1の
軸足コーデイングは、オープン・コーディングでカテゴリー化した後、ある1つのカテゴリーと複数のサブカテゴリーを関連付け、現象を表現することなので×である。2の
プリコーディングは予め分かっているものをコーディング(符号化)することなので×である。プリ(pre=事前の)と「後から」がかみあわないので×ぽいとしてもよい。3は、知らないと判断しづらいであろう。これが〇であるが、知らなければ△にして次に進む。4も知らないと判断しづらい。〇であるが、知らなければ△にして進む。5の
オープン・コーディングは、コード化したものを同士をまとめ、上位概念となるカテゴリーを作り名前をつける作業なので×である。ちなみに、5の内容は、
インビボ・コーディングのことであり、
過去問でも出題されている。類似した問題に
㉖-問90があるが、本問は過去問のレベルを超える部分を含んでおり、2と5を消去できたとしても、知識がないと残る肢から2つを選ぶことは難しかったと思われる。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス
質的データの分析方法にグラウンデッド・セオリー・アプローチがある。
この方法は、①目的設定⇒②データ収集⇒③データの逐語化⇒④オープン・コーディング⇒⑤軸足コーディング⇒⑥理論構築(考察)という形で展開される。
(米川和雄(2013)『ソーシャルワーカーのための社会調査の基礎』北大路書房pp47-55参照)
【正解3,4】