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13.権利擁護と成年後見制度(R2年-第33回)

問題77 財産権の制限に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 1 財産権は,条例によって制限することができない。 2 法律による財産権の制限は,立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えていれば, 憲法に違反し無効となる。 3 所有権は,法律によって制限することができない。 4 私有財産を公共のために制限する場合には,所有権の相互の調整に必要な制約によるものであっても,損失を補償しなければならない。 5 法令上の補償規定に基づかない財産権への補償は,憲法に違反し無効となる。   選択肢の中には判例の基準や結論も含まれており、簡単なようで奥が深い問題でもある。 本問は憲法29条の解釈に関する問題である。   1は、×である。条例によっても制限できる。ただ、憲法29条を知っていた人の中には、〇と判断した人もいたかもしれない(憲法29条2項は「法律で」となっているからである)。 2は、ざっと読んで、おかしな内容でないと感じる。〇または△にして次に進む。 3は、×である。もし3が正しいとしたなら、政府が税金を課すことさえできなくなってしまう。 4は、×である。知らなくても×ぽいと感じて欲しい。「所有権の相互の調整に必要な制約によるもの」であれば損失の補償はいらないだろうと推測できる。 5は、×である。とにもかくにも財産権への補償があった方が制限を受けた者にとっては有利なのだから、それが「法令上の補償規定に基づかない」ものだったとしても憲法違反にはならない。

【正解2】

  問題78 事例を読んで,次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 〔事例〕 Dさんは,アパートの1室をEさんから月額賃料10万円で賃借し,一人暮らしをしている。Dさんには,唯一の親族として,遠方に住む子のFさんがいる。また,賃借をする際,Dさんの知人であるGさんは,Eさんとの間で,この賃貸借においてDさんがEさんに対して負担する債務を保証する旨の契約をしている。 1 Dさんが賃料の支払を1回でも怠れば,Eさんは催告をすることなく直ちに賃貸借契約を解除することができる。 2 Fさんは,Dさんが死亡した場合に,このアパートの賃借権を相続することができる。 3 Gさんは,保証が口頭での約束にすぎなかった場合でも,契約に従った保証をしなければならない。 4 Fさんは,Dさんが賃料を支払わないときに,賃借人として賃料を支払う責任を負う。 5 Gさんは,この賃貸借とは別にDさんがEさんから金銭を借り入れていた場合に,この金銭についても保証をしなければならない。   昔法律を勉強した人で、法改正があったことを知らなかった人は、かえって正解を選ぶのに迷ったのではないだろうか。   1は、×である。知識がなくても事例を想起して考えてみて欲しい。たった1回でも支払いを怠ったら(※もしかしたらDはうっかり振り込むのを忘れただけかもしれない)、Eが何の問い合わせもしないで解除できるというのはあまりにもDにとって酷ではないだろうか。 2は、〇である。賃貸借契約はDとEの間で結ばれたものだが、Dの賃借権も債権として財産的価値を有しており、相続の対象となる(民法896条)。 3は、×である。保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない(民446条2項)からである。この条文は2004年(平成16年)に設けられたものである。この条文が設けられたのは、従来から軽い気持ちで保証を引き受けて重い負債を負ってしまうことがあるので、そのようなことを防ぐためである。 4は、×である。契約の当事者はあくまでもDとEである。FはDの子であるが、契約の当事者でもなければ保証人でもないので、賃借人として賃料を支払う責任を負わない。 5は、×である。GはEと保証契約をしているが、そこで保証するのは賃貸借においてDがEに対して負担する債務に限られる。賃貸借とは別にDがEから金銭を借り入れていたとしても、Gはその金銭を返す債務について保証する義務を負わない。

【正解2】

  問題79 遺言に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 公正証書遺言は,家庭裁判所の検認を必要とする。 2 聴覚•言語機能障害により遺言の趣旨を公証人に口授することができない場合は,公正証書遺言を作成することができない。 3 法定相続人の遺留分を侵害する内容の遺言は,その全部について無効となる。 4 前の遺言が後の遺言と抵触している場合,その抵触する部分について,後の遺言で前の遺言を撤回したものとはみなされない。 5 被保佐人が遺言を作成するには,保佐人の同意は不要である。   遺言については、自筆証書遺言書保管制度(令和2年(2021年)7月10日開始)もチェックしておこう。   1は、×である。公正証書遺言は公正証書による遺言である。この場合、公証人が立ち会うので、家庭裁判所の検認を必要としない。知らなかったとしても(普通知らないであろう)、公正証書遺言の特質から考えて欲しい。 2は、どうか。本問はその場で考えてもらうことを念頭に出題されていると思われる。「聴覚•言語機能障害」とあるが、別の見方をすれば視力には問題がないということである。聞いたり話したりできなくても、文字を使える人は存在する。そうだとすれば、筆談や身振り手振りを用いてコミュニケーションを取ることにより公正証書遺言を作成することができると考える方が素直ではないだろうか。×ぽい。 3は、×である。遺留分を侵害する遺言については過去問でも問われたことがある(聞き方が少し違うが)。遺留分を侵害する遺言にそのまま効力を認めることはできないが、すべてを無効とすると遺言をした人の意思がまったく反映されないこともある。この場合、遺言は一応有効とした上で、遺留分を侵害された人は遺留分減殺請求権を行使できることになっている(民1042条)。 4は、×である。後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる(民1923条1項)。普通に考えると後の遺言の方が本人の意向に合致すると考えられるからである。 5は、〇である。遺言は15歳以上であれば行うことができ(民961条)、成年後見人の取消権はなく、保佐人・補助人の同意も不要である(民962条)とされている。

【正解5】

  問題 80 事例を読んで,関係当事者の民事責任に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 〔事例〕 Y社会福祉法人が設置したグループホーム内で,利用者のHさんが利用者のJさんを殴打したためJさんが負傷した。K職員は,日頃からJさんがHさんから暴力を受けていたことを知っていたが,適切な措置をとらずに漫然と放置していた。 1 Hさんが責任能力を欠く場合には,JさんがK職員に対して不法行為責任を追及することはできない。 2 JさんがK職員に対して不法行為責任を追及する場合には,Y社会福祉法人に対して使用者責任を併せて追及することはできない。 3 JさんはY社会福祉法人に対して,施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。 4 Hさんに責任能力がある場合に,JさんがY社会福祉法人に対して使用者責任を追及するときは,Jさんは,損害の2分の1のみをY社会福祉法人に対して請求することができる。 5 Y社会福祉法人が使用者責任に基づいてJさんに対して損害賠償金を支払った場合には,Y社会福祉法人はK職員に対して求償することができない。   肢1と肢2は過去問の㉙問83で、肢4と肢5は㉔問72で出題されている論点である。肢3も㉙問83の肢3がかすっている。 福祉施設内における利用者同士の喧嘩やその際の職員の責任は、三度試験に登場したということは出題者も大切な問題だと考えているのであろう。   1は、×である。Hが責任能力を欠く場合、HはJに対して不法行為責任を負わない(民713条本文)。この場合、Jは職員Kに不法行為責任を追及できるだろうか。細かい条文の話は置いて、本問ではKが「日頃からJさんがHさんから暴力を受けていたことを知っていたが,適切な措置をとらずに漫然と放置していた」という記述に着目して欲しい。このような場合、JはKに不法行為責任を追及できるとすることが適切であろう。その根拠としては民709条、714条が考えられるが、それ以上に問題文の内容から素直に考えることが求められている。 2は、×である。JがKに不法行為責任を追及する場合、使用者であるY法人にも使用者責任を併せて追及できる(民715条)。 3は、〇である。問題文の事例において法的に注目すべきは職員Kの取った行動である。Kの行動が安全配慮義務に違反していることは明らかである。そして、KはY法人の債務の履行を補助する立場にあるので、JはY法人に対して施設利用契約における安全配慮義務違反として,損害賠償を請求することができる。 4は、×である。すでに述べた肢2の説明にあるように、JがKに不法行為責任を追及する場合、使用者であるY法人にも使用者責任を併せて追及できる(民715条)。この場合、JがKとY法人に請求できる額は、Jが被った全損害である。Hに責任能力があったとしても自動的に「損害の2分の1のみ」にはならない。被害者Hの救済が大切なことであり、加害者側の事情は別途考えてもらうということである。 5は、×である。Y法人がJに損害賠償を支払った場合、Y法人はKに求償できる(民715条3項)。素直に考えてもY法人からJに対する求償を認めた方が公平といえる。

【正解3】

  問題 81 次のうち,成年後見制度において成年後見人等に対して付与し得る権限として,正しいものを1つ選びなさい。 1 成年後見人に対する本人の居所指定権 2 成年後見監督人に対する本人への懲戒権 3 保佐人に対する本人の営業許可権 4 補助人に対する本人の代理権 5 任意後見監督人に対する本人の行為の取消権   受験生が本試験場ですべきことはできるだけ早く正確に正しい答えを選ぶことである。本問は積極法で正解を選ぶ問題である。 普段の勉強では、単に答えを見つけるのではなく、出題の意図についても考える癖を付けることで応用力が身につく。(㉗問78参照)   1は、×である。成年後見人に、居所指定権はない。 2は、×である。後見人は懲戒権を有している。 3は、×である。基本的に保佐人が有する同意権は、民法13条1項各号に掲げれた行為である。 4は、〇である。もっとも、代理権付与の申立てと本人の同意が必要でだが、本肢は基本事項といえる。 5は、×である。ちなみに、任意後見人にも同意権・取消権はない。

【正解4】

  問題82 任意後見制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 任意後見契約に関する証書の作成後,公証人は家庭裁判所に任意後見契約の届出をしなければならない。 2 本人は,任意後見監督人選任の請求を家庭裁判所に行うことはできない。 3 任意後見契約では,代理権目録に記載された代理権が付与される。 4 任意後見監督人が選任される前において,任意後見受任者は,家庭裁判所の許可を得て任意後見契約を解除することができる。 5 任意後見監督人が選任された後において,本人が後見開始の審判を受けたとしても,任意後見契約は継続される。   任意後見契約に関する法律は、短い法律なので、少なくとも一度は、条文に目を通しておこう。 福祉勉強会のホームページからは、資料室で簡単に条文をみることができる。   1は、知らないと迷う。わからなければ△にして先に進む。 2は、×である。最も利害関係のある本人が任意後見監督人選任の請求を行えないということは不合理だからである。 3は、〇である。予め契約で決めておいた代理権の目録について代理権が付与されるとの結論は、至極当然の内容である。 4は、一見するとよさそうにもみえるが、「任意後見監督人が選任されるの段階であれば、家庭裁判所の許可を得なくてもより簡略な方法で任意後見受任者は解除できる。なぜなら、任意後見監督人が選任されるまで任意後見契約の効力は発生していないからである。 5は、×である。後見開始の審判を受けた以上は新たに後見が開始されるべきできあり、任意後見契約は効力を失う(任意後見契約法10条3項)。以上より、1と3まで絞れれば、3を選ぶのが無難であろう。もちろん、自信を持って1を×とできた人は、より簡単に答えを出せたであろう。

【正解3】

 
ソーシャルワンカーと一緒にワン ステップUP‼ 任意後見契約法9条で、「任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる」と規定されている(㉖問81も参照)。
  問題83 「成年後見関係事件の概況(平成31年1月〜令和元年12月)」(最高裁判所事務総局家庭局)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 「成年後見関係事件」の「終局事件」において,主な申立ての動機として最も多いのは,預貯金等の管理・解約であった。 2 「成年後見関係事件」の「終局事件」において,市区町村長が申立人となったものの割合は,全体の約5割であった。 3 後見開始,保佐開始,補助開始事件のうち「認容で終局した事件」において,親族以外の成年後見人等の選任では,社会福祉士が最も多い。 4 「成年後見関係事件」のうち「認容で終局した事件」において,開始原因として最も多いのは,統合失調症であった。 5 「成年後見関係事件」の申立件数に占める保佐開始の審判の割合は,全体の約7割であった。 (注)1「成年後見関係事件」とは,後見開始,保佐開始,補助開始及び任意後見監督人選任事件をいう。 2「終局事件」とは,認容,却下,その他(取下げ,本人死亡等による当然終了,移送など)によって終局した事件のことである。 3「認容で終局した事件」とは,申立ての趣旨を認めて,後見開始,保佐開始,補助開始又は任意後見監督人選任をする旨の審判をした事件のことである。   本問は平成31年1月〜令和元年12月の成年後見関係事件の概況を問う出題である。 この統計は令和2年3月にまとめられたものである。   1は、〇である。直近の概況を知らなくても、制度発足時から「預貯金等の管理・解約」は主な申立ての動機として1位の座を占めている。 2は、×である。たしかに市区町村長が申立人となったものの割合は増えているものの、全体の半分までは占めていない。 3は、×である。概況を知らないために肢3を〇と判断した人もいるかもしれないが、専門職後見人で最も多いのは司法書士である。制度発足時は親族がなるケースが多かったが、平成31年は親族以外の者がなるケースが8割近くに達している。 4は、×である。開始事由として最も多いのは、やはり高齢者の認知症が多いだろう(高齢者社会でもあるし)と推測すべきだろう。 5は、×である。大体、成年後見制度が利用されるのは、にっちもさっちもいかなくなったときである。どういう場合かというと本人の判断能力が失われたといえるような場合である。すなわち、後見がもっとも多いと推測できる。

【正解1】

 
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 成年後見関係事件の概況に関する問題は、過去問でも何度も登場している。 時代とともに変化するものもあるので、新しい概況には目を通しておく必要がある。ただ、本問に関していえば2~3年前のものに目を通していれば、比較的容易に解けたと思われる。概況を読むときは細かい数字を覚えるのではなく、全体の大まかな傾向をつかむことが肝要である。そして一番多いものにも注意しよう。

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