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第21回 精神保健福祉の理論と相談援助の展開(事例問題)

事例問題 1

次の事例を読んで,問題 49 から問題 51 までについて答えなさい。 〔事 例〕 Cさん(50 歳,女性)は精神科病院に入院している。Cさんは,専門学校在学中に統合失調症を発症し,退院後に中退した。その後は就職をせずに実家で家事手伝いをしながら,同居する姉夫婦の子どもの面倒を見ていた。両親は既に亡くなっている。これまでCさんは何度か入退院を繰り返しており,今回の入院は 3 年間となっている。現在の症状は安定している。
Cさんの病棟に新たにD精神保健福祉士が配置された。D精神保健福祉士は,早速Cさんと面接を行った。担当看護師からCさんは退院に否定的ではないと聞いていたが,面接でCさんは退院したくないと言うばかりであった。
不思議に思ったD精神保健福祉士は,姉夫婦と面談したところ,来月には姉の長男が結婚して同居することになっているとのことであった。そのことを外泊時にCさんが知り,それから外泊もしなくなったという。姉夫婦も家族構成の変化や家が狭いことを考えると,Cさんとの同居はできれば避けたいとの意向であった。翌日,D精神保健福祉士は病棟での多職種チームによるカンファレンスに臨み,Cさんへの援助内容について提案した。(問題 49)
多職種チームの援助によって退院したCさんは,デイケアに週 3 日通い始めた。通所当初はメンバーとの交流も少なく,プログラム参加も消極的であった。ある日,就職した元メンバーがデイケアに顔を出し,働く生活について生き生きと話していた。それを聞いたCさんはとても驚き,担当のE精神保健福祉士に,「私なんかなんにもできていないし,とてもあんな人にはなれない」とポツリとつぶやいた。(問題 50)
その後,Cさんは少しずつプログラムに参加するようになり,メンバーとの交流も増えていった。処理能力の低さや緩慢な動作がありながらも, 6 か月後にはミーティングの司会を担当するまでになった。ある時,E精神保健福祉士との面接でCさんは,「この歳だけど,私も一度でいいから会社勤めをしてみたいんです」と語り,就職の意欲を示した。(問題 51)   問題 49 次の記述のうち,D精神保健福祉士の提案として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 Cさんを伴ってグループホームを訪問し,Cさんの視野を広げる。 2 姉夫婦に家族心理教育を行い,Cさんが実家に戻れる環境を作る。 3 作業療法でCさんの家事能力を高め,実家での役割を作る。 4 早めに実家への退院を進め,アウトリーチチームで家族も含めて支える。 5 Cさんの気持ちを尊重し,地域移行支援を一旦中止する。   この問題の解説 論理型の問題である。
事例を読むとCさんが長年実家にいたが、そこには姉夫婦が同居しており、しかも姉夫婦の長男が来年結婚することがわかる。
また、姉夫婦は、家族構成が変わり、家が狭いことから、Cさんとの同居には否定的であることがわかる。それを知ったCさんは、急に退院に否定的になったというのであるから、無理に実家に戻そうとすることは、Cさんにとっても、姉夫婦にもとっても適切な支援とはいえない。この観点から、2,3,5は×と判断できる。
残る1と5のいずれを選ぶべきか。迷ったときは、必ず問題文に戻る。Cさんの「現在の症状は安定している」ことに加え、決め手となるのは「担当看護師からCさんは退院に否定的ではないと聞いていたが,面接でCさんは退院したくないと言うばかりであった」という部分であろう。Cさんには退院を考える気持ちがあるものの、先に述べた理由から面接では退院を拒否しているのである。だとすれば、5の「地域移行支援を一旦中止する」よりも、1の「Cさんを伴ってグループホームを訪問し,Cさんの視野を広げる」ほうが、適切だといえるのではないだろうか。

【正解5】

問題 50 次のうち,この時点のCさんにとって必要なデイケアの役割及び機能として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。 1 居場所 2 疾患の回復 3 生活リズムの改善 4 自己効力感の回復 5 社会的機能の回復   この問題の解説 論理型の問題である。
「この時点のCさんにとって必要なデイケアの役割及び機能」が聞かれているので、問題50の段落の文章を読んで判断する必要がある。Cさんは他のメンバーとの交流も少なく、プログラムの参加には消極的であり、就職した元メンバーの話を聞いて、「私なんかなんにもできていないし,とてもあんな人にはなれない」と発言している。このことから、Cさんは自信を失っていることがわかる。
その上で、選択肢の中から最も適切なものを選ぶとしたら、4の自己効力感の回復であろう。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 自己効力感(セルフ・エフィカシー)とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性を認知していることをいう。心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した。バンデューラの社会的認知理論の中核となる概念の1つであり、自己効力感が強いほど実際にその行動を遂行できる傾向にあるといわれる。自己効力感を通して、人は自分の考えや、感情、行為をコントロールしている。

【正解4】

問題 51 次の記述のうち,この時にE精神保健福祉士がCさんに話した内容として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 「プログラムに袋詰め作業を取り入れて,作業スピードの向上を図りましょう」 2 「就労継続支援B型事業所なら働けるので,来週見学に行きましょうか」 3 「同じ障害があっても働いている方から,困難を乗り越えた経験を聞きましょう」 4 「服薬が自己管理できるようになったら,仕事を考えましょう」 5 「就職して再発する方がたくさんいます。今の生活を楽しみませんか」   この問題の解説 「この時にE精神保健福祉士がCさんに話した内容」を選ぶのであるから、問題51の段落をしっかりと読む必要がある。Cさんはデイサービスに6ヶ月通ううちに少しずつ自信もついてきて、E精神保健福祉士との面接で就労への意欲を見せている。このときの発言として、どれが適切か。
1は、悪いとまではいえないが、よりよいものがあるかもしれないので、次へ進む。2についても、同じことがいえる。3は、就労意欲を見せ始めたCさんにとって、非常によい機会となる可能性が高い。これが、今のところもっとも〇ぽい。4であるが、Cさんが服薬管理で苦労しているという話は問題文にない。5は、Cさんの意欲を削ぐ内容の発言であり、まったくもってダメである。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 問題文は、「適切なもの」を選べとなっていて、「最も適切なものを選べ」とはなっていない。しかし、一読してこれぞというものを選べないときは、選択肢を比較して決めるという慎重さも必要である。

正解3

 

事例問題 2

次の事例を読んで,問題 52 から問題 54 までについて答えなさい。 〔事 例〕 発達障害者支援センターのF精神保健福祉士は,Gさん(35 歳,女性)から息子のHさん( 7 歳)のことで相談を受けた。Gさんの話は,「Hは,幼少期から人見知りやこだわりが強かったが,障害とは思っていなかった。保育園でもささいなことで泣き出していたが,園長から,『Hさんの個性として受けとめましょう』と言われていた。しかし,地元のV小学校に入学すると,音に過敏で先生の話が聞けない,ノートが取れない,場面の切替えができない,運動会に参加できないなど,様々なつまずきがみられた。そして, 2 年生になると授業についていけなくなり,登校を嫌がって自宅でテレビゲームばかりするようになった。そこで,専門医を受診したところ,自閉症スペクトラムと診断された」とのことである。Gさんには診断にショックを受けながらも,無理やり登校を強いてきたことを責める様子がみられた。そして,「私はこれからHにどのように接したらいいのでしょうか」とF精神保健福祉士に尋ねた。(問題 52)
V小学校には特別支援学級はなかったが,GさんもHさんも転校は望んでいなかった。そこで,F精神保健福祉士はV小学校と協議の場を設け,Hさんが安心して学校に通うための対応を提案した。(問題 53)
Hさんが 4 年生に進級した時に,特別支援学級が設置され,Hさんは通常の学級との併用を開始した。ところが,しばらくするとHさんは,「なぜ自分だけが他の教室に行くの?」と特別支援学級に行くのを拒み,通常の学級での個別の配慮も嫌がるようになった。Gさんは,Hさんの言動に驚く一方,Hさんが他の児童と自分を比べざるを得ない状況に心を痛めた。Gさんの思いを聞いたF精神保健福祉士は,この件についてV小学校と協議を重ねた。そして,Hさんと同じ配慮が望ましい児童が複数いることも分かり,同様の配慮を教室環境や授業展開に取り入れた。結果として,Hさんが落ち着いて学習できる環境は,他の児童の学習効果につながるものでもあった。 また,この取組を通して,児童たちが,Hさんの困り事や支援の意義を理解できるようになったことは大きな成果であった。(問題 54)   問題 52 次の記述のうち,F精神保健福祉士のGさんへの助言内容として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 Hさんが苦手な科目の家庭学習の時間を,増やす。 2 Hさんの行動ではなく,性格に注目する。 3 Hさんがうまくできないことを,細部にわたって指示する。 4 Hさんが家庭でできそうなことを,見付けて日課にする。 5 Hさんと同年代の子どもができることを基準に,目標設定する。   この問題の解説 G(35歳)には息子のHがおり、小学校に入学したがうまくいっていない、診断の結果自閉症スペクトラムとわかっている。こうした背景のもとに、Gは「私はこれからHにどのように接したらいいのでしょうか」とF精神保健福祉士に尋ねている。
1は、特定の科目が苦手と言った話が問題文には書かれておらず、これだけを読んで正解を判断するのは危険である。次に進んで検討してみる。2であるが、Hは自閉症スペクトラムと診断されているので、性格に着目しても事態が改善されるとは思えない。3は、まったくもってダメなアドバイスという感じである。4は、まずHが家庭でできそうなことから取り組もうという方法である。ここまでの記述の中ではもっともよさそうである。5は、「同年代の子どもができることを基準」にして目標を立てるところが×である。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 自閉症スペクトラムの中核症状は、社会的コミュニケーションの障害、限定された反復的な行動である。治療としては、社会技能訓練(SST)、行動療法、認知行動療法などが行われる。この障害のある子どもの親が、適切なかかわりかたを身につけるためのペアレントトレーニングを受けることもある。また、易刺激性や多動、衝動性、不注意などの行動に対して精神科の薬を使うこともある。本問は自閉症スペクトラムについての知識があった方が解きやすいが、仮に知識がなかったとしたら、最もよさそうな記述を選ぶという視点から4にたどりつけた人が多かったのではないだろうか。

【正解4】

問題 53 次の記述のうち,F精神保健福祉士がV小学校に提案した内容として,適切なものを 2 つ選びなさい。 1 Hさんが授業で理解できない内容は,繰り返して話す。 2 学校行事では,Hさんへの事前の説明は控えて緊張を和らげる。 3 Hさんが,授業中にタブレット端末を活用する。 4 教室にはできるだけ多くの情報を掲示して見えるようにする。 5 活動の目的ごとに,教室内のエリアを区分する。   この問題の解説 論理型の問題である。
問題53の段落だけでなく、その前に書かれている記述も頼りにして解く必要がある。1は、Hが「音に過敏で先生の話が聞けない」ことから、×ぽい。2は、Hが「場面の切替えができない」ことからすると×ぽい。3は、Hがゲームが好きであることからすると、うまく使用すればHの支援を適切に行うアイテムになる可能性がある。〇ぽい。4のようなことをすれば、Hはかえって混乱するであろうと予測できる。×ぽい。5は少し悩むが、1,2,4と比較すれば、よさそうな内容である。以上から、3と5を選ぶ。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 「2つ選ぶ」ことを忘れて間違えた人もそこそこいたのではないだろうか。2つ選べという問題は、社会福祉士試験で第25回から登場した。この年の合格最低点は著しく下がり72点になった。問題文をよく読まないと、問題を解いていて、答えが見つかったと思った瞬間に、ケアレスミスをしてしまうことになる。また、解いている途中ですっかり忘れてしまうこともある。自分なりに、ケアレスミスをしない対策を考えておくことを勧める。

【正解3,5】

問題 54 次のうち,V小学校の児童への取組を示すものとして,最も適切なものを1 つ選びなさい。 1 ソーシャルキャピタル 2 ユニバーサルデザイン 3 ソーシャルロール・バロリゼーション 4 ヘルスプロモーション 5 アファーマティブアクション   この問題の解説 問題文を整理してみよう。 息子のHは「なぜ自分だけが他の教室に行くの?」と、別の教室に行くのを嫌がっているということを、Gの話からを聞いたF精神保健福祉士が、学校と協議を重ねた。その結果学校では、「Hさんと同じ配慮が望ましい児童が複数いることも分かり,同様の配慮を教室環境や授業展開に取り入れた」と書かれている。
どのようなことをしたかは明らかではないが、何らかの配慮を「教室環境や授業展開に」取り入れたのである。この状況を想像しながら、選択肢を読んで「最も適切なもの」を選ぶ必要がある。
1のソーシャルキャピタルは社会関係資本と訳されるが、「人々が持つ信頼関係や人間関係(社会的ネットワーク)のこと」を意味している。電気、ガス、水道などのインフラ整備のことではない。最近の試験でよく出されているので、要注意である。これだけを読んで答えを選ぶのは危険なので、次に進む。2のユニバーサルデザインは、すべての人が利用できるようなデザイン(様式)にすることである。ここを読んで自信が持てなければ、△にして次に進む。3のソーシャルロール・バロリゼーションは、ヴォルフェンスベルガーが唱えたものである(※同じ年の問題23で出題されている)。Hに社会的役割を付与したということは問題文に書かれていないので×である。4もピントがずれている。5のアファーマティブアクションは、積極的格差是正措置と訳されている。具体的には、民族や人種や出自による差別と貧困に悩む被差別集団の、進学や就職や職場における昇進において、特別な採用枠の設置や、試験点数の割り増しなどの優遇措置のことである。これもピントがずれている。
以上のように検討していくと、1か2までは絞れる。ここでいずれを選ぶか迷ったら、問題文に戻って決めるしかない。「Hさんと同じ配慮が望ましい児童が複数いることも分かり,同様の配慮を教室環境や授業展開に取り入れた」との記述からは、複数の生徒に共通する何らかの方式を「教室環境や授業展開に取り入れた」のであり、その結果「Hさんが落ち着いて学習できる環境は,他の児童の学習効果につながるものでもあった」と書かれている。この記述に沿ったものは、明らかに2のユニバーサルデザインの方であろう。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス くどくどと書いていますが、問題文を読んですぐにユニバーサルデザインを積極法で選べた人は、それで十分です。反対に迷った人は、少しでも早く正解の可能性の高い肢を絞ることが大切です。3,4,5の×をズムーズに見抜き、残る1と2で再度検討すれば、おそらく正解にたどりつけると思います。

【正解2】

 

事例問題 3

次の事例を読んで,問題 55 から問題 57 までについて答えなさい。 〔事 例〕 人口 8 万人の地方都市Q市は,人口減に歯止めがかからず,空き家問題も顕在化し,空き家対策の担当係を設置している。J精神保健福祉士は,隣の市の精神科病院で20 年間勤務していたが,数年前にQ市唯一のW精神科病院に転職した。同病院には,実家がきょうだいに代替わりし,帰る家がないなど社会的諸条件が整わないため退院できない患者が多数入院していた。J精神保健福祉士は,それらの患者の地域移行に向けて,地域の関係機関との連携づくりを始めた。(問題 55)
同時期に,Q市が設置する地域支援協議会では,精神障害者家族会代表者から,「親の施設入所や死亡により,一人暮らしになる精神障害者が増えつつある。その中には,症状が再燃し,入院となる人も出てきている。親亡き後のことを考えてほしい」という意見が出された。そこでQ市では,地域支援協議会に,W精神科病院,地域活動支援センターⅠ型,就労継続支援B型事業所,保健所,家族会及び当事者会を構成メンバーとする専門部会を立ち上げることとなり,J精神保健福祉士が部会長に就任した。初回の部会では,J精神保健福祉士がファシリテーターとなり,「Q市における精神障害者のニーズと対策」というテーマで,相互に批判をしないというルールの下で多様な意見を出し合った。(問題 56) その後に意見を整理した結果,Q市の現状としては,受入れ条件が整えば退院可能な者の対策が進んでいないことが共有された。そのような患者が地域生活を始めるためにも,また,親との離別により単身となった精神障害者が地域での暮らしを継続していくためにも,居住支援の必要性を確認した。そこで,J精神保健福祉士は,専門部会として,空き家を活用した居住支援を行っている自治体の視察を企画した。そして,Q市の精神保健福祉担当の職員だけでなく,空き家対策を担当する職員にも同行してもらうように働き掛けた。(問題 57)   問題 55 次のうち,この時点で,J精神保健福祉士が連携した地域の機関として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 指定一般相談支援事業所 2 指定居宅介護支援事業所 3 指定通院医療機関 4 精神保健福祉センター 5 地域包括支援センター   この問題の解説 人口8万人のQ市には空き家が多い、J精神保健福祉士が転職したQ市唯一のW精神科病院には自宅に戻れないまま入院している人が多い、J精神保健福祉士は,それらの患者の地域移行に向けて,地域の関係機関との連携づくりを始めた、ことが問題文に示されている。このことから、J精神保健福祉士が連携した地域の機関は、入院患者の退院を促進し、地域に移行するために必要な機関であると推測できる。
1の指定一般相談支援事業所は障害者総合支援法に根拠を有しているが、同事業所が行う支援の中には地域移行支援がある。このことを知っていれば、一読してこれが〇とわかる。2の指定居宅介護支援事業所は介護保険法に根拠を有するもので、いわゆるケアマネジャーがケアプランを作成するというサービスを行っているところである。×である。3の指定通院医療機関は、医療観察法に基づくものであり、本問では適切ではない。×である。4の精神保健福祉センターは、精神保健及び精神障害者福祉に関する総合的技術センターである。精神保健及び精神障害者の福祉に関する知識の普及、調査研究並びに複雑困難な相談事業、保健福祉事務所(同センター含む)、市保健所、市町村等に対する技術指導、技術援助を行っている。本問との関係では適切な機関とはいえない。5の地域包括支援センターは、介護保険法に根拠を有しており、本問との関係では適切な機関とはいえない。 以上から、1の知識があれば即座にそれを選べる。もしなければ、消去法も併用しながら、1を選ぶ。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 本問は、知識型の問題である。指定一般相談支援事業所に関連する知識は、問題21と問題27に出ている。障害者総合支援法における同事業所の役割については押さえておくべきであろう。また、3,4の知識も重要であるし、2,5も高齢者に対する支援と介護保険制度ではポピュラーな知識である。

【正解1】

問題 56 次のうち,この場面で,J精神保健福祉士が用いた方法として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 ブレインストーミング 2 デルファイ法 3 半構造化インタビュー 4 KJ法 5 パネルディスカッション   この問題の解説 J精神保健福祉士が用いた方法というのは、「「Q市における精神障害者のニーズと対策」というテーマで,相互に批判をしないというルールの下で多様な意見を出し合った」というものである。この方法を選択肢から選ぶと、1のブレインストーミングになる。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 本問は、知識型の問題であり、社会調査の基礎で学ぶ内容である。選択肢2のデルファイ法(Delphi –method)とは、多数の専門家に同一のアンケート調査を繰り返し、回答者の意見を収斂させる方法である。デルファイという名称は、古代ギリシャのデルフォイ(Delphoi)神殿の神託(神のお告げ)にちなんで名づけられたものである。あるテーマに対して、多数の専門家の意見をアンケート調査などによって収斂させ、技術発展の未来予測をすることに主眼が置かれる。残りの選択肢にある半構造化インタビュー、KJ法、パネルディスカッションは社会調査の基礎の過去問で頻出のものばかりである。社会福祉士と精神保健福祉士をW受験する人は本当に大変だと思うが、こうした問題では専門科目のみの受験生より有利なときもある。

【正解1】

問題 57 次のうち,この場面で,J精神保健福祉士が行った働き掛けとして,正しいものを 1 つ選びなさい。 1 ケアマネジメント 2 コラボレーション 3 コミュニティアセスメント 4 コンサルテーション 5 リーダーシップ   この問題の解説 Jは退院支援が進んでおらず、それを打開するためには居住支援の必要性があると考え、「Q市の精神保健福祉担当の職員だけでなく,空き家対策を担当する職員にも同行してもらうように働き掛けた」と書かれている。このJ精神保健福祉士が行った働き掛けとして正しいものを選ぶことが求められているが、解くときはざっと読んで外れそうなものを速やかに消し、選択肢を絞るのがよい。
1は×、4も×、5も×であることはわかるであろう。残る2と3のいずれを選ぶか。もし、迷ったなら、問題文に戻ることである。J精神保健福祉士は、そうした働き掛けを行う前提として「空き家を活用した居住支援を行っている自治体の視察を企画した」のである。このことから重点が置かれているのは、病院を退院できない精神障害者の空き家を活用した居住支援であり、そのために、市の精神保健福祉担当の職員と空き家対策を担当する職員の双方に同行を求めた(コラボさせた)ものである。 ここではコミュニティアセスメントに重点は置かれていない。とすれば、2のコラボレーションを選ぶべきであろう。コラボレーション(意味は共同、協力)はすでに日本語になっている。あの「コラボしない!」のコラボである。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 英語の用語がめちゃくちゃ多い気がするが、中には日本語として定着しているものもある。試験場では使える知識は何でも使おう。

【正解2】

 

事例問題 4

次の事例を読んで,問題 58 から問題 60 までについて答えなさい。 〔事 例〕 X地域活動支援センター(Ⅰ型)(以下「センター」という。)は,近隣のR市中学校より中学 2 年生を対象とした福祉教育の依頼を受けた。「総合的な学習の時間で精神障害を取り上げたい。生徒がメンタルヘルスを考えるとともに,地域共生について学ぶ機会になってほしい」という。センターに勤務するK精神保健福祉士は,以前,センターの利用者に,「もっと早い段階で病気のことを知っていればよかった」と言われたことを思い出し,改めてセンターに期待される役割を考えた。(問題 58) 依頼を受けたK精神保健福祉士は,中学校教諭,センター利用者,民生委員,同僚の精神保健福祉士たちと共同検討会を行い,授業の目的や内容について協議を始めた。授業で取り上げる精神疾患の種類や知ってほしい社会資源を検討していた時,センターの利用者から,「病気やサービスの説明だけで生徒がこころの健康を考えたり,障害のある人と一緒に生きていけるような地域をつくれるだろうか。講義だけでいいのでしょうか?」との意見が出された。そこでK精神保健福祉士は次のように発言した。(問題 59) 検討会を重ねるうちに,それぞれの思いや願いを率直に語る雰囲気ができ,各々の立場での考え方を共有していった。生徒たちのメンタルヘルス,地域での精神障害者の生活,感じる偏見などの話題を通して授業の目的や内容が明確になり,案がまとまった。授業のテーマは,「誰かに相談することは自分と大切な人を守る」とし,内容はプログラム 1 としてメンタルヘルスや当事者体験の講義,プログラム 2 として交流体験型学習と決定した。(問題 60) 授業実施後,生徒たちから,「誰もが一日一日を一生懸命生きていることが分かった」,「自分と周りの人を大切にして行動したい」などの感想が寄せられた。また教諭より,「当事者の方と交流して,地域で共に生きることを生徒たちが考える機会になった」とコメントがあった。その後,K精神保健福祉士は授業についての報告書をまとめ,この取組を他でも展開していけるよう教育委員会に働き掛けを行っている。   問題 58 次のうち,この時点でK精神保健福祉士が考えたX地域活動支援センター(Ⅰ型)の役割として,適切なものを 1 つ選びなさい。 1 地域における連携強化のための調整 2 障害に対する理解の促進のための普及啓発 3 在宅障害者への社会適応訓練 4 地域のボランティア育成 5 相談支援事業の実施   この問題の解説 論理型の問題である。
「この時点で」となっているので、(問題58)の段落に着目して解けばよい。
X地域活動支援センター(Ⅰ型)(以下「センター」という。)は,近隣のR市中学校より中学 2 年生を対象とした福祉教育の依頼を受けたわけであるが、依頼の内容は生徒がメンタルヘルスを考え、「地域共生について学ぶ機会になってほしい」ことにある。そして、この依頼を受けたK精神保健福祉士は、「もっと早い段階で病気のことを知っていればよかった」との利用者の言葉を思い出して、改めてセンターに期待される役割を考えたのであるが、その役割の内容は文脈からいって、2の障害に対する理解の促進のための普及啓発が適切だといえよう。他は文脈との関係でいえばピントがずれている。

【正解2】

問題 59 次の記述のうち,この場面でK精神保健福祉士が発言した内容として,適切なものを 2 つ選びなさい。 1 「入院患者さんへの手紙を生徒の皆さんに書いてもらいましょうか」 2 「精神疾患の説明を省きましょうか」 3 「皆さんの地域共生のイメージを聞かせていただけますか」 4 「社会資源の情報提供があれば,十分ではないでしょうか」 5 「みんなが自分のこととして考えられるような方法を挙げてみませんか」   この問題の解説 「この場面で」とあるので、(問題59)の段落を中心に検討する必要がある。
また、この場面にいるのは、K精神保健福祉士と「中学校教諭,センター利用者,民生委員,同僚の精神保健福祉士たち」である。答えを選ぶ決め手は、Kの発言の前にあるセンターの利用者からの「病気やサービスの説明だけで生徒がこころの健康を考えたり,障害のある人と一緒に生きていけるような地域をつくれるだろうか。講義だけでいいのでしょうか?」という意見である。
1は少しびっくりする内容であるが、この記述だけ読んで適切ではないと判断するのは難しい。2は明らかに×。3はまあよさそうな内容。4は明らかに×である。5は少し迷う。1,3,5から2つ選ぶわけだが、3は「地域共生」というテーマを明確にする上では適切といえるので、これは〇であろう。1と5ではどちらがよいか。迷ったら問題文に戻る。利用者の「講義だけでいいのでしょうか?」という発言をどう捉えるかであるが、共同検討会は「授業の目的や内容について」どうするかにあるのだから、授業の中で講義以外にも何かをしたほうがよいのではないかと読む方が素直であろう。そうだとすると1よりも5の方が無難な解答といえよう。
ソーシャルワンカーからのワン ポイントアドバイス 本問は正解が割れたのではないだろうか。問題文の中の福祉教育の対象は中学2年生なので、それなりの思慮分別はあると思われる。ただ、生徒の中には精神障害を理解していないものもかなりいると思われる。精神障害者に対してどのようなイメージを持っているかは、かなりわかれるであろう。手紙を書いてもらって、それを無条件に利用者に渡すことには不安もある。そう考えると実質的にも1の方法には難があるといえるのかもしれない。ところで、本問も「2つ」選ぶ問題であるが、微妙な肢が並んでいると、いつのまにか最もよい答え(ここでは3)が見つかった段階で、つい2つ選ぶことを忘れてしまうことがある。普段はミスをしない人でも、緊張した本試験ではそうしたミスをおかしやすい。なお、答えを2つ選ぶ問題の場合、適当にマークしたときの正答率は、10%である。しかし、1つ消去できると正解できる確率は16%になり、2つ消去できると33%になる。また、1つでも正解を見つければ、残る一つを適当に選んだ場合でも正解できる確率は25%になる(5つから1つを適当に選ぶ場合よりも確率は高くなる。)。2択の問題において、1つ消す、あるいは1つ見つけることがいかに大事かがわかる。

【正解3,5】

問題 60 次の記述のうち,プログラム 2 の内容として,最も適切なものを 1 つ選びなさい。 1 生徒がセンター利用者の体験談を聞いて感想文を書く。 2 センター利用者が生徒にボランティアの依頼をする。 3 生徒がセンター利用者の作成した精神疾患のクイズに答える。 4 生徒が疑似体験ツールを用いて統合失調症の疑似体験をする。 5 センター利用者と生徒が精神的不調に気付いた時のロールプレイをする。   この問題の解説 論理型の問題である。
プログラム2は「交流体験型学習」である。このキーワードから答えを導き出した人もいるかもしれない。しかし、かなり危険な方法である。すでに別の問題で書いたが、(問題●)の前後の文章をどこまで読むかは、問題によって異なる。本問では、(問題60)の後に、わざわざ授業実施後の生徒の感想が書かれているのだから、ここを読む必要がある。 生徒たちからは「誰もが一日一日を一生懸命生きていることが分かった」,「自分と周りの人を大切にして行動したい」などの感想が寄せられ、教諭からは「当事者の方と交流して,地域で共に生きることを生徒たちが考える機会になった」というコメントがあった、とある。
1は△。2は×。3は、精神疾患の理解は深まるかもしれないが、利用者が一生懸命に生きていることまではわからないので×。4も同様な理由で×。5は△。1か5のいずれにするかを再度検討する。ここで「交流体験型」学習というキーワードに着目した場合、1よりも5が適切だと自信を持って選ぶことができる。

【正解5】

【ソーシャルワンカーの感想】 精神保健福祉相談援助の基盤(15問)と精神保健福祉の理論と相談援助の展開(25問)の2つを合わせると、精神保健福祉士の専門科目の問題数(80問)の半分を占める。この2科目でどれだけ点数を稼げるかは、合否を大きく左右する。   ただ、人によっては相談援助系の科目や事例問題が苦手だという人もいるであろう。その場合、別の科目で点数を稼ぐことが必要になる。試験は、1.総合で合格点を越え。2.決められた科目群の中で0点を取らない。の条件をクリア出来れば合格できるのであるから、この科目が苦手であっても合格できないということではない。
今年の問題に限らず、精神保健福祉士の問題には、実践的な問題が多い。事例の形式を取っているが、論理と読解力だけではなく、個別の制度等の知識がないと解きづらい問題がかなり含まれている。精神保健福祉相談援助の基盤と精神保健福祉の理論と相談援助の展開の2科目のテキストを読むだけでは、この分野で高得点を挙げることは難しいであろう。これは、専門科目のすべてをバランスよく勉強する必要があることを意味している。   ★そこで、ニコとコキから、この科目(特に事例問題)についてのアドバイス★   1.問題文をよく読む 2.論理の問題か知識の問題かに注意して解く 3.迷ったら必ず問題文に戻る   これらは、他の科目についてもいえることである。 旧カリキュラムの社会福祉援助技術、精神保健福祉援助技術の時代には、論理で解く問題(≒読解問題)が多かったので、点数を稼ぎやすかった。しかし、現在の試験ではそれは通用しない。とはいえ、相談援助系の科目で覚えるべきことはそれほど多くはない。他の科目を勉強することが前提ではあるが、この科目は、少しの努力と注意をするだけで、点数を伸ばしやすいことに変わりはないと思う。

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