第3回 3つの実践モデル

「新型コロナウィルス感染症と戦う全ての人応援ブログ
~対人援助って何だ?~」(ブログ番外編

全国規模の緊急事態宣言を受けて、皆さん、如何お過ごしですか?
5月4日、政府は当初5月6日までとしていた緊急事態宣言を5月末まで延長することを決めました。安倍首相は、今後の状況を鑑み、場合によっては前倒しで緊急事態宣言を解除する意向を示しました。一方で、どのような状況になった場合、宣言が解除されるか等の具体的な指標は示されませんでした。
従って、私たちは、当面、5月末を見据えて、活動自粛が求められる生活を送ることになります。
せっかくの時間ですから、これを機に、福祉を学んでみては如何でしょう。
 
これまで、福祉勉強会では、福祉専門職国家試験に挑戦する人たちを対象に、「受験対策応援ブログ~合格への道~」を通じて、福祉の学びを提供してきました。
この知見を活かし、緊急事態宣言の実施期間中には、応援ブログ番外編として、新型コロナウィルス感染症と戦う全ての人応援ブログ~対人援助って何だ?~」と題し、ソーシャルワーク実践の場で活用されている「対人援助の知識と技術」について、皆さんに、分かりやすくご紹介してみたいと思います。
 

第3回目は「実践モデル」について、ご紹介しましょう。

 
今日、ご紹介するのは、ソーシャルワークにおける「実践モデル」です。
これは、福祉専門職および福祉職を志す者にとって、実践の根幹部分となる考え方です。
代表的な「実践モデル」は次の3つ。

①治療モデル(remedy model)
②生活モデル(life model)
③ストレングスモデル(strengths model)

これらのモデルは、提唱された時代が異なり、古い順に、①治療モデル、②生活モデル、③ストレングスモデルとなります。
しかし、これら3つは、過去のモデルが書き換えられた訳ではなく、現在においても、共存しており実践場面で福祉専門職らによって活用されています。
※受験生は、ソーシャルワークの発展過程と併せて、3つのモデル各々の長所や短所を学びます。
 
では、「実践モデル」とは、一体何なのでしょうか。
「クライアントが抱える課題(問題)の捉え方」と説明すれば、分かりやすいでしょうか。
ソーシャルワーカーは、クライアントが抱える様々な生活課題(問題)を対人援助アプローチによって、解決へと導いていくことを生業にしています。
アプローチには、幾つかの種類があり、課題の種類や性質によって、活用すべきアプローチが異なり、加えて、アプローチの活用には技術が必要であり、ここに、ソーシャルワーカー自身の手腕が大きく影響することになります。
※各種アプローチについては、機会があればご紹介したいと思います。
 
この時、クライエントの課題解決に向けて、どのようなアプローチをどの段階で活用し、どういったプロセスで解決を目指すのかという「見通し」「計画」重要になってきます。
そこでポイントになるのが、「課題(問題)をどのように捉えるか」という「課題(問題)の捉え方」です。課題の捉え方が違ってくると、当然に、アプローチの選び方や活用方法が違ってくることになるからです。
 
少し、例を掲げてみましょう。

交通事故で、足の機能障害が残ったAさんは、これまでの様に、自立歩行することが出来なくなった為、通勤することも従来の仕事であった営業職に復帰することも難しくなった。
その為、Aさんは社会生活に復帰する希望が持てず、全てのことにやる気を失ってしまった。
Aさんの支援担当になったBソーシャルワーカーは、必要な支援計画の立案に取り掛かった。

 
上記の例では、「社会生活に復帰する希望が持てずにいる」ということが、現時点におけるAさんの生活課題の一つになっています。
この課題をどのように捉えて、解決への道筋を考えていくかというのが「実践モデル」です。
つまり、「希望が持てない」原因の捉え方の違いを類型化しているのが、「実践モデル」ということになります。
 
①足の機能障害に焦点を当てた場合
支援としては、障害を克服することで、事故前の標準的な状態を目指すことになる。
例えば、適切な治療を受けられる環境整備であったり、リハビリ体制の確保等が計画される。
これが、治療モデルです。
 
②従前の仕事であった営業職に復帰できないことに焦点を当てた場合
支援としては、自立歩行ができないという障害そのものが克服できなかったとしても、事故前と同様な、社会人としての生活を取り戻すことを目指すことになる。
例えば、テレワークを活用した営業の環境整備であったり、移動を可能にする車いすの確保が計画される。
これが、生活モデルです。
 
③Aさん自身が既に備えているスキル(強み)を活かすことに焦点を当てた場合
支援としては、交通事故を起こす前のAさんの生活様式や周囲の価値観に拘らず、Aさん個人が既に有している潜在的な長所(利点)を活用することで、新しい生活スタイルをAさん自身が創り上げていけるように、必要となる様々な環境整備を行っていくことになる。
これが、ストレングスモデルです。
 
課題の捉え方の違いとそれに基づく支援の違いが、何となくお分かり頂けただろうか。
 
もう一つ、各々のモデルの特徴を際立たせた事例を紹介し、ソーシャルワーカーの着眼の違いを紹介してみましょう。(※事例は、社会福祉士養成テキストから一部改変して引用)

中学1年生のNさんは、夏休み明けの2学期から、学校に登校できない状況が続いている。母親は、このまま不登校の状態が続くことを心配し、1日も早く登校するようになって欲しいと願う一方で、無理強いすることも出来ず対応に苦慮している。
Mソーシャルワーカーは、Nさんおよび母親との面談を行い、必要な支援計画の立案に取り掛かった。

 
Mソーシャルワーカーは、面談を通じて、次のような思考を展開していくことになります。
 
①治療モデルでの思考展開
・登校できなくなった原因は何だろう。
・いじめや仲間との不仲はなかったか。
・過去の生育歴の中で、発達課題上の問題はなかったか。
 
②生活モデルでの思考展開
・Nさんはクラスの中でどのような存在で、適応状況はどうだったか。
・友人関係における(プラス・マイナス両面から)ストレスには、どのように対応していただろうか。
・Nさんと母親との親子関係および他の家族との関係はどのような状況だろうか。
 
③ストレングスモデルでの思考展開
・Nさんは、学校に行かないという意思を自ら表明することができる。
・仮に、何らかの友人トラブルを抱えていても、本人にとって最悪の状況を回避することができる。
・母親は、Nさんを心配しており、事態を打開しようとしたり、何らかの対処をしようとしている。
 
3つのモデルでは、思考の展開が異なる為、当然、面談時における会話(質問)の仕方も異なってきます。
 
①治療モデルでの会話の展開
・学校に行けなくなった前後で、Nさんに何か変わった様子はありませんでしたか。
・いじめや友人とのトラブルのようなものはありませんでしたか。
・小さい頃は、どんなお子さんでしたか。
※ソーシャルワーカーは、不登校に直結する「直接的な因果関係」を見つけ出そうと努力します。
 
②生活モデルでの会話の展開
・Nさんは、何の教科が得意もしくは苦手ですか。
・Nさんのお友達は、どのようなお子さんで、どんな付き合い方をしていましたか。
・お父さんとNさんの関係、もしくは兄弟姉妹とNさんの関係はどうでしょうか。
※ソーシャルワーカーは、Nさんの生活環境を取りまく、種々の情報収集を行い、包括的かつ総合的に課題分析を行うことで、次の展開を見つけていこうと努力します。
 
③ストレングスモデルでの会話の展開
・今の気持ちを教えてくれるかな。
・これからどうしたいと思っているか聞かせくれる。
・焦らず、長い目でお子さんと向き合っていきましょう。
※ソーシャルワーカーは、本人や本人を取巻く環境が有している「強み」や「能力」に、光をあてることで、課題解決への道筋を見つけ出そうと努力します。
 

ここで、3つのモデルを理解する上での、ワン🐾ポイント!
◆治療モデルは、課題や問題・病理や障害に焦点を当て、個人に対する直接の因果関係を見つけ、原因を解消することで課題の解決を目指す。
◆生活モデルは、人と環境の相互関係に焦点を当て、その調和を保つ、もしくは環境への適応能力を高めることで、課題の解決を目指す。
◆ストレンスモデルは、人や環境の「強み」「能力」に焦点を当て、その利点を最大限に引き出すことで、課題の解決を目指す。

 
如何でしょうか。私たち福祉専門職が、クライエントの生活課題に対し、どのように向き合い、どのように課題解決を目指そうとしているのか、支援の組み立て方が分かって頂けたと思います。
また、課題の捉え方によって、課題解決に向けたプロセスは大きく違ってくることも感じて頂けたのではないでしょうか。
 
新型コロナウィルス感染症対策および緊急事態宣言によって、私たちは、ある種の生活課題に対応せざるを得ない状況になりました。
生活課題が人それぞれなのは、言うまでもありませんが、課題解決に向けた優先順位もまた、人それぞれだということを私たちは忘れてはならないのではないでしょうか。ここには、個人の価値観・人生観が大きく影響しています。私たち福祉専門職は、多くの場面で「最善の利益」という言葉を使います。大切なのは、この「最善の利益」が、誰にとっての、何のための「最善の利益」であるのかをしっかりと見極めることです。
 

あなたにとって、最も大切なものは何ですか?
あなたにとって、一番大切な人は誰ですか?
あなたにとって、何よりも守りたいものは何ですか?

 
ソーシャルワークの「実践モデル」という考え方が、あなたの大切なもの、あなたの大切な人、そして、あなたが絶対に失いたくない何かを守れる一助になります様に!
 
福祉の学びが、どこかで誰かの役に立つことができたなら、私たちにとって、これ以上の喜びはありません。
 
ソーシャルワンカー&ソーシャルにゃんかー
福祉勉強会
雨の中で虹を描く